【週刊日本企業ウォッチ】


研究院オリジナル 花王の家庭用洗剤ブランド「アタック」の中国市場からの撤退は、中国に進出している外資系企業に示唆を与えている。TSUTAYA BOOKSTOREの中国での相次ぐ閉店は、日本モデルのまま中国に持ち込むことの失敗を意味し、大塚製薬が中国との合資企業の大半の株式を売ったことは、「道同じからざれば、相為に謀らず(志す道が違う者とはわかりあえないので意味のない話し合いはしない」という賢明な選択であろう。


花王「アタック」の撤退が示す外資ブランドの中国市場における3つの課題


このほど、花王グループは、家庭用洗剤ブランド「Attackアタック」が9月30日以降、中国大陸で洗濯用洗剤、洗濯用粉末洗剤など全製品の販売を終了すると発表。1993年に中国市場に進出したこの老舗ブランドが、正式に幕を閉じることになった。


業界関係者によると、「アタック」の市場撤退は、「外資系ブランドが中国市場で構造的な課題に直面していることを示している」という。課題は主に以下の3つの面に現れている。


第一に、技術駆動から市場駆動への移行である。「アタック」が中国に進出した当初、技術優位性によって市場シェアを急速に獲得した。しかし、近年、中国の現地ブランドである藍月亮(ブルームーン)、立白(リバランス)、納愛斯(ナイス)などが、より機動的な研究開発のアップグレードや現地化などのイノベーションによって追い抜いた。例えば、藍月亮は中国の消費者の嗜好に合わせて濃縮洗濯洗剤や除菌シリーズをリリースし、コストパフォーマンスにおいてより競争力を備えているだけでなく、ソーシャルメディア(SNS)マーケティングを通じて若年層に的確にアプローチしている。一方、「アタック」は製品リニューアルの速度が遅く、パッケージや機能が中国市場ニーズの変化にタイムリーに対応できていなかった。外資系企業従来の「技術駆動」の論理は中国市場で次第に通用しなくなり、「市場駆動」のイノベーションモデルに取って代わられた。中国の現地企業は消費トレンドを捉え、販売に適した製品を迅速にリリースすることにより長けている。


第二に、チャネル変革による競争構造の再構築である。「アタック」は初期段階では上海家化(家庭用化学品)のオフライン販売網に依存していたが、ECと新興小売チャネルの台頭に伴い、従来のチャネルの優位性は次第に失われた。現地ブランドはオンラインのエコシステムなどに精通していることを強みに、天猫(Tmall)、京東(JD.com)、拼多多(Pin duoduo)などのプラットフォームを迅速に抑え、ライブコマースやコミュニティマーケティングを通じて急成長を実現した。一方、外資系ブランドは意思決定の過程が長く、チャネル転換が遅れたため、この流れについていくのが難しかった。さらに、オフラインチャネルの費用は高騰し続けており、利益率を圧迫している。


第三に、消費トレンドの変化によるブランド価値の再形成である。現在、中国の消費者は家庭用清掃製品に対する需要が基本的な機能から、健康、環境保護、情緒的価値へと移行している。例えば、雕牌(Diaopai、ディアオパイ)、超能(chaoneng、チャオノン)などの中国現地ブランドは「国民的記憶」マーケティングを通じて情緒的共感を呼び起こしているが、外資系ブランドへの文化的アイデンティティは次第に弱まっている。さらに、環境保護主義の台頭により、現地ブランドは天然成分、環境に配慮するパッケージなどの面において外資系企業よりはるかに迅速に対応している。「アタック」は国際的な環境認証(ESG基準など)を中国市場で認められるコミュニケーション言語に転換できず、ブランド価値がずれてしまった。


本研究院が提案するのは、「今後、日本企業は中国で現地化研究開発を深化させ、中国の消費習慣と現場に合わせて製品を開発すべきであり、グローバルな処方を簡単に移植するのではなく、デジタル化や市場に入り込むマーケティングを展開し、技術優位性を消費者が感知できる情緒的価値への転換に注力すべき」ということだ。


TSUTAYA BOOKSTOREは中国で日本モデルをそのまま持ち込むことが通用しないことを証明


8月末、成都のTSUTAYA BOOKSTOREが正式に閉店した。これはTSUTAYAの中国大陸における4店舗目の閉店であり、TSUTAYAの中国大陸での書店は残すところ11店舗のみとなった。2020年にTSUTAYA BOOKSTOREの中国1号店が杭州にオープンした際、「中国で1000店舗を展開する」という壮大な目標を掲げていたころに比べると、TSUTAYA BOOKSTOREは中国で大きな挫折を味わったことになる。


業界関係者によると、TSUTAYA BOOKSTOREの核心的な問題は、日本モデルをそのまま持ち込み、ローカル市場を研究し磨き上げることの不足にある。TSUTAYA BOOKSTOREの日本における成功は、完全なライフスタイルを構築したことにあり、書籍はその一部に過ぎず、映像、飲食、雑貨などの高頻度消費シーンによって支えられている。しかし、中国では、サプライチェーン、版権、協力モデルなどに制限され、大部分のTSUTAYA BOOKSTOREは依然として「書籍+文房具+コーヒー」という陳腐な組み合わせにとどまっている。


さらに、TSUTAYAは中国では軽資産モデルを採用しており、各地の協力パートナーやフランチャイジーが投資し、TSUTAYAはデザイン審査とサプライチェーン支援のみを提供している。リスクを低下させているように見えるが、フランチャイジーはTSUTAYAのモデルや業態に対して必ずしも十分な運営能力を持っておらず、持続可能な消費シーンを形成することは難しく、現地化イノベーションの能力もない。


TSUTAYAとは対照的に、一部のローカル書店はTSUTAYA BOOKSTOREのような大規模で高投入なモデルを真似るのではなく、コンテンツの蓄積、専門的な障壁、ローカルな物語性を通じて、読者と独特で長期的な関係を構築し、静かに成長している。たとえばそれぞれの店舗が現地の人や文化と緊密に結びつき、防空壕や古建築などを改装して書店とし、新たな都市あるいは農村の文化的ランドマークとなっている先鋒書店(Librairie Avant-Garde)のように、多くの書店が観光の名所となっている。


型破りな企業と向き合った大塚は果断に損切


先ごろ、大塚ホールディングス(Otsuka Holdings)は、マイクロポート(微創医療)の約2億9100万株の株式を売却すると発表した。大塚は2004年に1800万米ドルを出資して、マイクロポートの当時の株式の40%を取得。その後10数年間、大塚はマイクロポートに寄り添い続け、マイクロポートが2010年に香港株に上場するまで支援した。2024年末現在、大塚はマイクロポートの20.7%の株式を保有し、筆頭株主となっていた。今回の株式売却後、大塚の持ち株比率は約5%に低下し、筆頭株主の座から退くことになる。


マイクロポートは医療機器メーカーで、2021年には株価が72.85香港ドルの高値を付け、時価総額は1200億香港ドルを超えた。しかし、その後は連続欠損モードに入り、2024年にはマイクロポートは5年連続の赤字を計上し、株価は一時4.46香港ドルまで下落した。


業界関係者によると、大塚がマイクロポートの株式を売却したのは欠損が原因ではなく、マイクロポートの経営理念が大塚の初心から大きく逸脱したためである。マイクロポートは一種の型破りなビジネスモデル――上場企業の「生産」を採用している。2019年から2022年までの短い間に、マイクロポートは心脈医療、心通医療、微創医療機器人(ロボット)、微創脳科学、微電生理などの子会社を分離してそれぞれ上場させている。資産を分離して上場させればより多くの資金を調達できるが、子会社の上場前の業績要求を満たすために、親会社は継続的に資金を注入する必要があり、マイクロポートの連続赤字はこれと密接に関連している。さらに、債務問題を解決するために、マイクロポートとその子会社はハイリスクなVAM(Valuation Adjustment Mechanismバリュエーション調整メカニズム契約。ギャンブル契約とも呼ばれる)を高瓴資本(ヒルハウス・キャピタル)などと行っている。


中国には型破りな企業がいくつかあり、コンセプトを作り出して資本運営を行うことに熱心である。「道同じからざれば、相為に謀らず(志す道が違う者とはわかりあえないので意味のない話し合いはしない」、このようにやり方には馴染まず、大塚が果断に手を切るのは明らかに賢明な選択である。

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『日系企業リーダー必読』は中国における日系企業向けの日本語研究レポートであり、中国の状況に対する日系企業の管理職の需要を満たすことを目指し、中日関係の情勢、中国政策の動向、中国経済の行き先、中国市場でのチャンス、中国における多国籍企業経営などの分野で発生した重大な事件、現状や問題について深く分析を行うものであります。毎月の5日と20日に発刊し、報告ごとの文字数は約15,000字です。

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