『ウィークリー日本企業観察』



研究院オリジナル 先週、中国メディアは、アリババのクラウドサービス「阿里雲(アリクラウド)」の日本技術責任者が在中日本企業に対してアドバイスを行ったことや日系証券会社の中国市場における経営状況が芳しくないことについて取り上げ、そしてレクサスによる上海工場建設の動機に対する分析を行った。


アリババが在中日本企業に行ったアドバイス


在中日本企業は往々にして中国市場の「スピード」に対応できていない。つい先週のメディア報道によると、アリババのクラウドサービス「阿里雲(アリクラウド)」で日本技術責任者を務める大和田健人氏は、在中日本企業にとって、中国のインダストリアルIoT(IoT)モデルを手本にしてデジタル化へのモデルチェンジを加速し、敢えて新しい組織モデルに挑戦すれば、今の在中日本企業に見られる市場に対する反応が総じて遅いという状態を効果的に改善できるかもしれないという考えを示した。


中国では、IoTが設計、生産、サプライチェーンからマーケティングのチェーン全体にまで深く浸透しており、デジタル主導型製造を通じて、「中国のスマート製造」の独自モデルを形成する面で、アリババは重要な推進役の一つとなっている。


最も代表的な例は「小単快反(少量注文、迅速対応)モデル」であり、アリババが中国のアパレル工場のために作り上げた「迅犀」システムは、データ分析と3D印刷、AIアシスト生産によって、サンプル製作の所要日数を1カ月から5日に短縮し、多品種、少量、短納期生産を実現しており、ダボス会議で「グローバル・ライトハウス」に選定された。アリババはさらに自動車工場向けにサプライヤーのスマート倉庫を建設し、需要に基づいた正確な発注を実現している。


大和田氏は、日本企業のIIOT応用は往々にして「各拠点又は各工程単位での局所的な最適化」に集中しており、バリューチェーン全体の視点から全面的な整理統合の推進を行ったという事例は少ない。その主な原因は、中国工場の責任者が有する権限が常に自身が管轄する範囲に限定されており、領域の垣根を超えたチェーン全体の全面的な最適化を推進する面での意思決定権が付与されていないことにある。日系資本の大型工場では、それぞれの製造領域が日本本社の異なる部門に属しているため、工場内部の全面的な最適化を図る面で問題は山積みだ。


大和田氏は、現行の業務と組織の枠組みの中で重大な改革を進めることへの抵抗力が非常に大きい場合、韓国のアパレルブランドのやり方を参考にすることができるとアドバイスした。中国で盛んな「小単快反」モデルを推進するために、同ブランドは中国で現地職員を中心に据えた新しいブランドや新しい企業を専門的に立ち上げ、旧体制の抵抗力を首尾よく回避している。また、中国合弁パートナーのリソースを活用して自社を補強し、実戦経験を積むことができるかもしれない。


中国に馴染めない日系証券会社


7月4日、野村東方国際証券公司は浙江支店の閉鎖を正式に発表した。先週のメディア報道によると、野村東方国際傘下の支店はすでに半分以下にまで削減されており、現在でも営業を続けているのは上海、北京、深センの3都市のみだ。2024年、野村東方国際の純損失額は1億2900万元だった。


この発表の前日、日系持株会社である大和証券中国公司では、初代社長の耿欣氏がひっそりと退任したが、2024年、大和証券中国公司の純損失額は1億3500万元だった。同じく日系資本である東亜前海証券公司の2024年の純損失額は1億4600万元だった。


業界内の解説によると、外資証券会社が中国で発展を遂げるカギは「現地化」と「差別化」にある。一つの側面は、中国市場の監督管理環境と顧客ニーズに適応する必要があり、例えば資産管理業務により多くの現地化された商品を溶け込ませることだ。もう一つの側面として、クロスボーダー業務やデリバティブ取引といった分野での専門的な強みを発揮し、従来業務において国内の証券会社と正面切って競争することを避ける必要がある。明らかに、日系証券会社はこれらの両方面でうまくやれていない。


レクサスの上海工場建設に込められた三重の戦略配置


最近、レクサスの新エネルギー自動車プロジェクトが上海市金山区で正式に起工し、工事に入った。レクサスが中国市場進出を果たしてから20年後、正式に国内生産の体制に入った。業界の分析によると、レクサスの上海工場建設には、三重の戦略配置が込められているという。


一、レクサス上海工場ではガソリン車やハイブリッドモデルを生産せず、BEV市場に特化させ、新製品に中国的要素を大量に溶け込ませ、自社ブランドの蓄積を重ね合わせることにより、中国市場で独自の強みを育み、今後の中国BEV市場で十分なシェアを獲得することが期待されている。


二、中国の最先端かつコストが最安のBEV産業チェーンを拠り所に、電動化のペースおよびスマート運転技術のイノベーションをさらに加速させ、世界全体におけるBEVのスマート運転技術体系に恩恵をもたらす。レクサスは上海の現地スマート運転企業および浙江省寧波市の部品工場群の助力を得ることにより、部品の現地化率を95%以上に引き上げ、物流コストを30%カットし、自動車製造コストを大幅に削減することができた。レクサスによる上海工場の建設は、中国の消費者だけにとどまらず、世界のBEV市場をも対象にした戦略配置と言える。


三、今後の水素エネルギー自動車の発展に向けた良い準備だ。レクサスが選択した上海市金山区は上海の水素エネルギー産業の重要地点として、すでに水素ガスの貯蔵および輸送、燃料電池開発などの重要なパートを担っている。レクサスは上海市嘉定にある水素エネルギー産業基地の助力を得て、燃料電池の拠点を設けており、トヨタは長江デルタ初の万トン級のグリーン水素貯蔵・輸送基地を建設する予定だ。トヨタの水素エネルギー戦略と中国の政策が高度に一致し、水素エネルギー技術がいっそう成熟するにつれて、レクサス上海工場は今後、水素エネルギー自動車(発展)の突破口となる可能性がある。

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