『必読』ダイジェスト 2024年11月8日から、中国が韓国の一般旅券所持者を対象に15日以内のノービザ入国政策を実施したところ、多くの韓国人が中国旅行に殺到している。韓国人の訪中旅行で最も人気のあるスポットは、もはや張家界や九華山ではなく、上海だ。ついこの前の2024年12月、上海の韓国人旅行者数は前年比180%超増で、前期比でも40%以上増加した。


今や、上海のビジネス街と観光スポットで、韓国人の姿の増加が顕著だ。中国のネットユーザーの冗談めかした総括によると、韓国人旅行者は非常に見分けがつきやすく、髪型や身なり、顔立ち、気質から、それが「中国人でも、日本人でもなく、韓国人であることは一目で分かる!」という。


韓国人旅行者は若く、おしゃれである上に、消費力も非常に強い。一般人でも、上海に到着するとタクシーを利用するが、より高額な「ハイヤー」に乗ることを好む。これら旅行者は上海の賑わいや多彩なグルメを非常に気に入って、上海の物価は安く、コストパフォーマンスが良いと感じている。


韓国のある財閥が上海で接待した時のものという食事の伝票がネット上に拡散されたが、それは12人の上海での一回の会食で、消費額が56万元(日本円で約1200万円)を超えているというものだった。中でも高額だったのは、2本の高級なフランスのヴィンテージワインだった。


多くの韓国のブロガーがSNS上に、自身の上海旅行の感想をシェアしているが、ブロガーたちが一様に意外さを感じているのは以下の2点だった。


第一に、上海がまさかソウル以上に、これほどまでに賑やかだとは思いもよらなかった。第二に、中国人は韓国人に対して比較的に友好的で、中国旅行がこんなに便利で安全だというのも思いもよらなかった。


「韓流の上海席巻」により、韓国人旅行者との交流に対する上海、江蘇、浙江の若者たちの熱意がかき立てられている。多くの上海および浙江に住む富裕層の子どもたちは、ネット上で誘い合わせて高級自家用車を運転して出かけ、韓国人旅行者が集中するエリアに車を並べて見せびらかすようにしている。中には防寒着を着こんでオープンカーを運転し、韓国人旅行者に「お年玉」を配る者までいる。つまり、これらのネットユーザーたちは上海、ひいては長江デルタの実力を見せつけ、オシャレな韓国人旅行者に負けたくないと思っているのだ。


この若者たちの行動は、「見栄っ張り」が儒教文化圏の核心的な特徴の一つであることを証明しており、中国人、韓国人、日本人、ベトナム人、シンガポール人のいずれであっても、同じようなものだ。


金儲け、消費、見栄を張ることが好きで、それが「厳しい競争」の中で展開されていくことは、儒教文化圏共通の特徴および潜在意識だ。加えて家庭および国家に対する観念、民族意識が強いことは、なぜ第二次世界大戦後、儒教文化圏の国(地区)だけが階層を飛び越えて、先進経済体に昇格することができたのかを物語っている。


ひいては学者たちも、「中所得国家のワナ」が世界の他の地区にのみ生じており、儒教文化圏では基本的に存在しないと考えている。行政権力が無能でもなく、偏っていなければ、儒教文化圏の国および地区はみな先進経済体に昇格することもできる。


韓国人が上海を包囲していることは、重視すべきいかなるシグナルを発しているのだろうか?


第一、中国の物価体系がすでに世界とデカップリングしていることを中国人に示している。


2020年のコロナ禍以降、世界の対応策は2つに分かれた。中国のロックダウンおよびゼロコロナ、そして欧米による緩和の強行で、日本と韓国はその2つのモデルの間をとった。


米国を代表格とする西側の先進国は、経済の突然死に対する対策として、「ヘリコプターからお金のばら撒き」モデルに着手し、民衆に対して直接資金を提供したが、それによって通貨の過剰発行が生じた。過剰発行した通貨+コロナ対策緩和の成功+次世代産業革命(AI、半導体)によって、米国では新たな強気相場(ブルマーケット)が出現し、インフレも速やかに上昇に転じ、物価が急上昇した。米国のインフレ率は一時、9%を超えた。


一方で中国は「3年間のコロナ禍+不動産の大転換+経済萎縮」に直面し、改革開放以降最も長期にわたるデフレが生じた。CPIの前年比上昇幅はずっと0%付近をさまよっている。もし中国の一級都市にある住宅を米国の住宅に置き換えるとしたら、現在の置換能力は、もはや2019年時の三分の一まで縮小している可能性がある。


なぜコロナ禍が収束したのち、中国国内の旅行者が香港やマカオ、欧米、日本、韓国を訪れる人の数は減っているのか?それは物価体系が完全に異なり、中国人の海外における購買力は著しく低下しているからだ。


これに対して、欧米や日本、韓国、および香港、マカオ、台湾の人々は中国国内を旅行して消費しており、その購買力は明らかに強さが増している。


コロナ禍が収束した後、中国で海外旅行者による消費ブームが訪れたが、その第一波は香港と深センの間で生じ、今でもその勢いは落ちていない。2024年、平均で毎日20万人以上の香港人が深センを訪れて買い物をしており、そのおかげで深センの多くのショッピングモールは救われた。


韓国人による上海旅行は、いわば第二波だ。韓国人の消費力はさらに強く、韓国人たちは上海に行く際、往復航空券を買って、少なくとも1、2泊はする。香港人が深センで消費する場合、基本的に宿泊はしない。


第二、人民元レートが過小評価されていることを中国人に示している。


最新の人民元の対米ドルオフショア為替レートは、1ドル=7.36元に達し、さらに切り下げ圧力が続いている。


購買力平価から、海外旅行者の消費体験から見ると、人民元レートは過小評価されている。専門家の試算によると、現在は1ドル=5~5.5元が妥当な額だ。


レートは製品の競争力や生産効率だけでなく、さらに国際関係によっても左右され、特に中国とこの世界の「実際の管理者」である米国の関係で決められる。この点を中国人は理解しておくべきだ。


第三、自主的な開放、自ら開放の拡大の重要性を中国人に示している。


中国は人口大国で、超がつく規模の生産能力と市場を擁している。中国にとって、国内大循環と国際大循環は非常に重要であり、どちらも疎かにできない。グローバル化に逆風が生じている時こそ、中国はグローバル化の大旗を掲げて、中央経済活動会議で提起された「秩序立った自主的な開放および自ら開放の拡大」に着手するべきだ。


いわゆる「自主的な開放および自ら開放」とは、つまり「あなたが私に対して開放するなら、私もあなたに対して開放しよう。あなたが対外開放しないなら、私もあなたに対して開放しない」というものだ。例えば、中国は約40カ国に対して自らビザ免除を実施しているが、その圧倒的多数は先進国だ。


韓国人が上海に押し寄せて消費していることは、自ら開放の成果であり、それによって貴重な流入、消費需要がもたらされており、さらに先進国で過去数年間に蓄積された対中偏見に変化をもたらすこともできる。


今回の韓国人による訪中旅行ブームで、人気のある都市は順に、上海、青島、北京、広州、深セン、大連、杭州、延吉、成都、煙台だ。韓国人の訪中消費に対する印象と感想が各大手SNSサイトに投稿され、それによって多くの人々の偏見に変化がもたらされ、さらに多くの海外旅行者が引き寄せられることにより、好ましい循環が形成されている。


それゆえ、韓国などの海外からの旅行者に対して親切に接することで、旅行者によりよい旅や消費体験を提供することができるが、そうすることは現在の中国にとって非常に重要なことだ。


上海統計局が発表したデータによると、2024年1月から11月まで、上海の社会消費品小売総額は前年比3.1%減で、そのうち宿泊および飲食業の小売売上額は前年比5.3%減だった。2024年1月から9月まで、上海の飲食業は業界全体で赤字を計上している。それゆえ、香港からの客が深センにある多くのショッピングモールや飲食店を救ったように、韓国からの旅行者も上海の外食および宿泊業界に対して「雪中送炭(援助の手)」を差し伸べることだろう。


つまり、対外開放は非常に重要だ。対外開放、それは主に隣国への開放であり、また消費および投資のスピルオーバーを起こす能力がある先進国に対する開放だ。


第四、国内消費への取り組みが非常に重要であり、2025年が重要な年になることを中国人に示している。


外部による消費量の増加は非常に重要だが、根本的な問題を解決するのは困難だ。中国経済をけん引する上で、カギとなるのはやはり内需への取り組みだ。内需に取り組むには、供給側からの着手だけでなく、消費力向上の面からの着手が必要である。


今後、全国民消費券の発行を考慮してもよいだろう。それを国民一人一人が受け取れて、無条件で使用できるものにし、一定の使用期限(例えば12カ月)を設ける。例えば一人あたり2000元分の券を発行すれば、2.8兆元の消費力となる。


その資金はどこから来るのか?技術的な手段はたくさんある。例えば、特別国債を発行してもよい。現時点で、全国民消費券の発行がもたらすけん引力は大規模なインフラ建設投資よりもずっと役に立つ。


もし全国民消費券の発行が実現すれば、A株指数が速やかに4000ポイントを突破することも夢ではない。株式市場が動き出すと、不動産市場もそれに伴って回復し、経済全体も立ち直ることだろう。


(『日系企業リーダー必読』2025年1月20日の記事からダイジェスト)

大手企業を含む多くの日系企業が購読している『必読』

『日系企業リーダー必読』は中国における日系企業向けの日本語研究レポートであり、中国の状況に対する日系企業の管理職の需要を満たすことを目指し、中日関係の情勢、中国政策の動向、中国経済の行き先、中国市場でのチャンス、中国における多国籍企業経営などの分野で発生した重大な事件、現状や問題について深く分析を行うものであります。毎月の5日と20日に発刊し、報告ごとの文字数は約15,000字です。

現在、『日系企業リーダー必読』の購読企業は、世界ランキング500にランクインした日本企業を含む数十社にのぼります。

サンプルをお求めの場合、chenyan@jpins.com.cnへメールをください。メールに会社名、フルネーム、職務をご記入いただきます。よろしくお願いいたします。

メールマガジンの購読

当研究院のメールマガジンをご購読いただくと、当方の週報を無料配信いたします。ほかにも次のような特典がございます。

·当サイト掲載の記事の配信

·研究院の各種研究レポート(コンパクト版)の配信

·研究院主催の各種イベントのお知らせ及び招待状

週報の配信を希望されない場合、その旨をお知らせください。