『必読』ダイジェスト 過去1年、中国経済には誇るに値するところはこれといってなかったが、かといって「明るい話題」が全くなかったわけではない。そのひとつが中国製自動車ではないだろうか。2023年末、世界のメディアは中国の自動車輸出が日本を抜いて世界一になることを「もはや既定路線」と伝え、中国メディアもこれを大々的に報じた。しかし、本当の注目点はそこにはない。
中国の自動車輸出台数が世界一に躍進したことは快挙には違いないが、その意義は自国メディアが報道するほど大きなものというわけではない。なぜなら日本の大手メーカーの車はその約6割が海外で生産されており、日本にとって輸出台数はさほど大きな意味を持たず、「1年間にどれだけの自動車を世界で生産して販売しているか」ということが重要なのである。グローバルな生産・販売台数という点では、中国の自動車産業は日本やドイツとの間にまだまだ大きな開きがある。
その意味で、以下の統計データに従えばより正確に将来を見通すことができよう。日本の自動車産業調査会社マークラインズによれば、2023年上半期に中国BYD(比亜迪)の世界での販売台数は前年同期比96%増の125万台となり、世界第10位のブランドとなった。中国の自動車メーカーが世界の販売トップ10にランクインしたのは初めてだ。さらに昨年の第3四半期には、BYDは日本のスズキを抜いて第9位となった。
中国ローカルブランドの台頭は、2023年における自動車国際市場のキーワードとなった。多くの中国自動車メーカーが世界の一流ブランドになる野心を隠さない。中国国内の新エネルギー車市場での躍進に加えて、ますます多くの中国ローカルブランド車(主に新エネルギー車)が積極的に海外市場を開拓し始めた。中国興業証券(INDUSTRIAL SECURITIES)のレポートによると、中国の乗用車輸出台数は2023年に前年同期比66%増、2024年には同30%増になると予測され、多くの中国国産ブランドが海外進出を加速させている。BYDのほかにも長安汽車と吉利汽車の2023年の世界累計販売台数で約150万台に達し、2024年には世界トップ10入りが予想される。
中国の自動車輸出は、2023年初から世界の自動車市場で需要が増加したEV(電気自動車)で活気づいた。1位はBYD、2位が米国のテスラで、両社は熾烈なトップ争いを繰り広げている。この他、吉利汽車やAION(アイオン=広汽埃安)などの中国メーカーも高いシェアを得ているが、韓国のEVメーカーはシェア争いの上位に食い込むことができていない。
米国のブルームバーグは2023年12月27日、「BYDのEV販売台数は2023年第4四半期にテスラを抜いて世界一になる」と予測している。米国のニュース専門サイト『ビジネス・インサイダー』はデータを有力な証拠として示し、近く販売台数のトップは入れ替わるであろうという。「BYDが2023年第3四半期に販売したEVはテスラを3000台下まわったが、2024年1月初旬に発表される予定の2023年第4四半期のデータでは、BYDがテスラを追い抜く可能性が高い」
ブルームバーグは、「BYDの量産モデルがテスラ車に比べての価格競争力がある」として、さらに投資会社の予測を引用して「テスラは収益や時価総額などの指標でまだBYDを上まわっているが、2024年までにその差は大幅に縮まるだろう」と報じ、「これはEV市場で象徴的な転換点となり、世界の自動車産業における中国の影響力の高まりを裏付けることになる」と伝えた。
米国民間格付け企業のムーディーズは2023年12月26日に公表したレポートで、市場のEV需要の高まりのほかに中国の自動車輸出が急成長している理由のひとつとして、中国製EVが生産コスト面で大きな優位性を持っていることを挙げている。レポートはさらに中国が世界のリチウム供給量の半分以上を占め、世界の金属の半分以上を擁し、日本や韓国の競合他社に比べて労働コストが安いことも指摘している。
このことは単にステレオタイプな「メイド・イン・チャイナ」は品質がそこそこで安いという話ではなく、むしろ「世界の自動車産業の競合環境に大きな変化が生まれている」ことを示している。BYDとテスラの両社に投資している米国スノーブル・キャピタルの中国担当責任者ブリジット・マッカーシー氏はブルームバーグに対し、「自動車会社のコストや規模、さらには技術革新、イノベーションや新旧交代の速さだけでなく、消費者意識のなかで新ブランドが旧ブランドにとって代わるという大きな時代の転換期を迎えている。BYDは早くから市場の大変革を見越して準備を進め、人々の想像を超えるスピードでこれを実現してきた。そして今では、業界内の競合他社も中国ブランドがますます無視できない存在になりつつあることを真摯に認識すべきだ」としている。
(『日系企業リーダー必読』2024年1月5日の記事からダイジェスト)