研究院オリジナル 現在、日本企業は中国市場でより熾烈な競争に直面しているが、特に中国国内企業との競争が激しい。しかし、一部の日本企業は引き続き競争における優位性を保持することができており、これらの企業は会社規模が決して大きくないにもかかわらず、専門分野を極めることに力を注いでおり、その分野で絶対的な発言権を有している。その中でも、シマノは最も代表的な存在と言えよう。
中国の自転車はシマノと不可分
中国は伝統的な自転車大国で、その生産量は世界トップであり、世界の自転車の総生産量の三分の二を占める。しかし、一般の人々に知られていない点として、ほぼすべての中国の自転車とシマノの変速機は不可分の関係にある。
自転車は主にフレームや変速コンポーネント、ホイールセットという3つの基幹部分で構成されており、その中でも変速コンポーネントは自転車の品質を決定づける基幹部品だ。世界最大の自転車変速機メーカーとして、シマノは世界の自転車部品市場で70%以上のシェアを有しており、特に同社が生産する変速機はほぼ完全にミドル・ハイエンド市場を独占している。サイクリング愛好者のサイトでは、「自転車の品質はシマノによってランク付けされる」というフレーズが流行している。ひとたびシマノの変速機が使われると、自転車の価格はすぐにワンランク又はツーランクほどアップする。現在、中国市場では価格が1000元以上の自転車変速機の年間需要量が800万セットを上回っており、95%のシェアをシマノと米国SRAMの二社が占めており、シマノはさらにほぼ独占的な地位を占めている。
2021年、中国における自転車の輸出規模は6000万台を超え、輸出額は36億4300億ドル(人民元では233億元)だ。シマノの2021年度の純売上額は3780億円(人民元では214億元)だ。今年の同社の純売上額は5000億円(人民元では283億元)になる見込みであり、中国の自転車産業全体がシマノに抗えないと言っても過言ではない。
シマノが有する独占的な地位により、ある機関の概算によると、中国における自転車の総販売額のうち40%の利益がシマノに入るという。
中国は世界最大の自転車市場および製造基地だが、なぜ日本の一企業に束縛されているのか?ある分析によると、その根本的な原因は中国の自転車企業が一様に戦略における先見性に欠けていることにある。足代わりの道具としての自転車の地位は必然的に原動機付車両に代替されると見られていたが、自転車市場はまだ存在しており、しかもその足代わりの道具はスポーツおよびレクリエーション用品へと変化し、自転車市場がローエンド市場からミドル・ハイエンド市場に転換したことにより、自転車も材質や変速機、ホイールセットなどの面で技術の進歩が求められるようになった。明らかに中国企業は基本的にこの点に気づいておらず、技術の進歩の点で少しも功績を残していない。それに比べて、シマノも同様に自転車メーカーだが、70年代に、日本が自動車時代に突入した後、自転車市場の規模が大幅に縮小したため、シマノは自転車の製造停止を決定し、自転車の基幹部品の製造を行うようになり、その後ミドル・ハイエンド市場で絶対的な発言権を獲得した。
中国には自転車関連の企業が60万社以上あるが、シマノの独占的な地位を揺り動かす力はあるのか?今後も長きにわたってその可能性はない。
好機は始まったばかり
シマノにとって、中国市場での好機はまだ始まったばかりだ。
消費のグレードアップが進むにつれて、中国でもサイクリング・ブームが高まりつつあり、中国の『2022・若年層で新たに流行しているスポーツの報告』によると、サイクリングは若年層に最も人気のある流行のスポーツランキングで3位にランクインしている。Eコマースプラットフォームの京東による取引額に基づいた統計によると、今年6月以降、ロードバイクは前年比で120%増加し、シティサイクルは前年比90%増、マウンテンバイクは前年比70%増、折り畳み式自転車は前年比60%増、ウェアラブルアイテムは前年比100%増、サイクリングウェアは前年比163%増、自転車部品は前年比90%増だった。
現在、シマノの変速機は供給が需要に追いついておらず、1台10万元のLOOKであれ、1台3000元の美利達であれ、いずれもシマノからの部品供給を待たなければならない。シマノは独占的な地位を有するため、原材料価格が上昇した時もその圧力を川下に流すことによって、自社の利益水準を保証することができている。今年以降、部材サプライヤーであるシマノは2度も値上げを行っている。
シマノが発表した2022年上半期の財務報告によると、ミドル・ハイエンドの自転車供給が需要に追い付いていないことが追い風となって、自転車部門の売上額は18億ドル(日本円で約2492億300万円)に達し、前年比17.2%増だった。
それに引き換え、鳳凰や永久をはじめとする中国国内自転車ブランドが、このボーナス期に得られた利益は微々たるものだ。2022年上半期、中国国産自転車のトップブランドと呼ばれている永久自転車は売上額が3億9100万元で、前年比12.32%増だったが、純利益はわずか1115万9300元で、前年比45.47%減だった。上海鳳凰の売上額は7億6700万元で、前年同期と比べると三分の一以上も下落した。同社の純利益は5317万元で、前年比14.51%減だった。
今後も追い越すのは難しい
人々にとって理解しがたいのは、中国における科学技術の発展は今や月の探査に行ける水準に達しているというのに、なぜ自転車の変速機技術すら解決できないのかということだ。実のところ、技術的には解決できるが、ビジネスと資本の方面で実現は容易ではない。
一つの典型的な実例を挙げると、かつて中国のボールペンに用いられる特別なステンレスは日本企業が独占していたが、後に中国の太鋼が開発に成功した。そして、このペン先に用いられる鋼を製造するために、生産ラインを改造し、すべての設備とフローをこの鋼の製錬フローに沿って調整した。しかし、中国ではこの鋼に対する年間の総需要がわずか1000トン余りで、ビジネスとしては全く割が合わないものであり、明らかに太鋼のやり方は商行為ではなく、「栄誉」を得ることが目的だった。
サイクリング市場は小さな市場に過ぎず、中国におけるサイクリング人口は総人口の1%に満たない。それゆえ、実力のある大企業や大資本はチップや新エネルギー自動車などの新興の超注目市場にしか関心が向かない。その一方で小企業や小資本はシマノという業界の王者に挑戦できるほどの十分な実力を備えていない。
業界内の分析によると、シマノの機械変速技術は長年の創意工夫の蓄積により生み出されたものであり、中国企業にはすでに勝ち目がない。しかし、将来的に電子変速機分野という全く新しい土俵なら、新エネルギー自動車と従来型燃料自動車のように、中国企業にも浮上するチャンスが存在する。
しかし、それも決して容易なことではない。なぜならシマノは決して保守的な企業ではないからだ。シマノも同様に電子変速の未来を見据えている。同社は2009年に、初めて商品化に成功した電動変速機「Dura-Ace Di2」を発表している。現在、シマノが毎年出願している電子変速機に関連した特許出願件数は約40件に上る。
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