『必読』ダイジェスト 2005年以降、中国は全国で大規模な高鉄(高速鉄道)建設を始めたが、これまで4.6万キロの高鉄を建設し、運行距離はもはや全世界の他のあらゆる国の高鉄の運行距離の合計を上回っている。しかも、この勢いはまだ鈍化しておらず、今年1〜8月、中国の鉄道固定資産投資は前年同期比10.5%増の4102億に達し、ここ10年で最高となった、そのかなりの部分(具体的な金額は公表されていない)も高鉄建設だ。
世論は二極化している。高鉄が登場したばかりの数年とは異なり、現在の世論は高鉄に対する称賛や期待一辺倒ではなく、ネット上では疑問や悪口のほうが多くなっているようだ。例えば、経済未発達地域の高鉄路線の巨額の赤字や、巨額の資金を費やして建設したのに誰もいない高鉄停車駅が多くの地域に出現するなど、批判の声が頻繁に上がっている。
高鉄の社会・経済効果をどう評価するかは非常に大きな話題であり、単純な答えなどない。交通は「経済発展の動脈」と呼ばれ、人類社会の発展史から見ると、海運、鉄道、航空などの新しい交通手段が現れるたびに、地域経済発展配置に変化が生じ、都市の盛衰を引き起こす。ここでは1つの問題のみを検討する。中国の高速鉄道網の建設は、都市経済の発展にいかに深刻な影響を与えたのか。都市経済の発展は逆に高鉄建設にいかなる影響を与えているのか。
高鉄は一部の都市の高速発展を推進
まず、高速鉄道がもたらす「時空圧縮」は経済発展の地域空間を再定義し、沿線の一部都市に「回廊効果」、「集積効果」、「同都市一体化効果」などの影響をもたらしており、都市経済発展を推し進める効果には非常に驚くべきものがある。
例えば、中国の中心地帯に位置する鄭州市は、「米」字型の高速鉄道ネットワークによって、強い凝集力を形成している。2009年に鄭州の国内総生産(GDP)が全省のGDPに占める割合は17%だったが、2023年には23%に上昇した。
河北省廊坊市のような小さな都市では、北京〜上海間や北京〜天津間高鉄によって北京との通勤距離が短縮され、多くの北京出身者が住宅を購入して定住することで、「首都の裏庭」となっている。2024年前半の7か月、廊坊市の一人当たりの消費額は6402元に達し、河北省の省都である石家荘(5936元)を明らかに上回っている。
安徽省黄山は観光資源が豊富だが、山々の中に位置しており、交通はあまり便利ではない。高鉄によって江蘇省浙江省上海市の「1時間交通圏」に組み入れられてから、今年上半期、受け入れた観光客は延べ4047万人となり、前年同期比12.1%増加し、観光総収入は373.3億元で、前年同期比12.9%増加した。
高鉄は中心都市と周辺の小都市の格差を広げた
だが、どんなことにも二面性があり、高鉄の集積効果のもう一方につながっているのが「サイフォン効果」だ。高速鉄道のより効率的な移動は人口流動の加速を招き、一部の都市で急速な人口純流出が現れ、中心都市と周辺小都市の発展格差が拡大し、都市間の発展不均衡がますます際立つようになった。
「北京〜上海間高鉄及び上海〜漢蓉(上海〜武漢〜成都)高鉄が沿線36の三、四線都市に与える影響に関する研究」によると、人口集積度から見ると、高鉄は三、四線都市の人口集積を後押しするの役割を果たすどころか、うち58%の都市の常住人口比率がかえって低下している。山東省泰安市、安徽省楚州市、江蘇省昆山市、湖北省荊州市、重慶市豊都市、湖北省天門市などいくつかの都市で、人口の純流出が最も深刻なものとなった。
GDP成長率を見ると、高鉄開通後、北京〜上海間高鉄沿線の50%の都市、上海〜漢蓉間高鉄沿線の60%の都市のGDP成長率は所在省において比較的低下がみられ、全省の平均レベルを下回った。
2009年、湖南省株洲市で最初の高鉄停車駅が開通した時、株洲市民は非常に興奮し、高鉄が株洲により輝かしい時代をもたらすと思いこんでいた。だが、結果は予想外で、2009年から2023年まで、湖南省全体のGDPは286.77%増加したものの、株洲市のGDPは258.68%増加にとどまった。2020年から現在まで、株洲の常住人口は減少を続けている。
株洲は個別のケースというわけではなく、江蘇省の昆山市、安徽省の全椒市、六安市、湖北省の巴東市などの都市では、高鉄開通前の成長率が全省の平均レベルを上回っていたにもかかわらず、開通後にはいずれも全省の平均レベルの後塵を拝することになった。
高鉄停車駅が過剰な理由
このような都市間の発展不均衡の激化は、高鉄建設の発展にも影響をもたらし、高速鉄道駅の過剰としてはっきり現れている。
目下、中国には世界の他のすべての国の高速鉄道駅の数を合わせたものよりも多い、1300以上の高速鉄道駅が建設されている。例えば、小さな桂林市(人口500万人未満、GDP 2500億元)には、9つの高鉄停車駅が作られている。あるホームでは現在乗車する人はごくわずかで、2022年、そのうちの1つの駅で旅客輸送業務を中止し、その巨大な駅舎は人のいない「幽霊建物」となり、駅前広場は地元農民の穀物干し場となっている。
大まかな統計によると、全国で少なくとも20か所の高鉄停車駅が、建設後何年も稼働していない、或いは閉鎖している。南京、武漢、瀋陽、大連、合肥といった大都市にさえ「幽霊駅」が現れている。
その原因として大きく次の2つが挙げられる。一つ目は、高鉄の「サイフォン効果」により、一部地域の人の流れがわずか数年で急減し、同地域の新しい高鉄停車駅が建設された時点で、実際の利用客数は計画時の数字をはるかに下回っていたことだ。二つ目は、多くの高鉄停車駅の配置が合理的でないことだ。高鉄沿道の都市は、いずれも地元に駅を設置することにあらゆる努力を重ねてきた。中国国家鉄路集団(国鉄集団)はしばしば複数都市の要請に配慮するために駅を折衷的な位置に設置している。これらの位置は当然都市の中心部から遠く離れており、辺鄙な位置にあることで人々の移動を大変なものにしている。例えば、「滬昆(ここん、上海~昆明)高鉄」湖南省内の邵陽北駅は邵陽市街地から50キロ以上離れており、車で1時間以上かかる。これは人々の高鉄に乗車したいという気持ちに影響を与えている。
一つの高鉄停車駅はすべて数千万元ないし数億元を費やして建設されたものではあるが、なぜ使わないと決められないのか。高鉄停車駅の建設と運営は国鉄集団と地方政府が共同で負担しているため、2021年以降、景気の下振れや不動産低迷などの影響を受けて、地方政府の財政が逼迫し始め、建設後の高鉄停車駅の運営支出を縮小せざるを得なかった。まして、高速鉄道駅を保有した都市の中には、高鉄停車駅の建設と運営コストを自ら負担しているのに、期待通りのリターンが得られていないことに気づいたことで、高鉄停車駅の運営への補助金を引き下げ始めた。
国鉄集団も重荷を背負いつつ前進しているが、2020年から現在まで(2024年上半期の業績を含む)、国鉄集団の累計損失は1700億元近くに達している。国鉄集団は経営戦略の転換を余儀なくされ、各高鉄停車駅の商業価値と社会的価値を総合的に評価し、客数の少ない高鉄停車駅を思い切って閉鎖した。
(『日系企業リーダー必読』2024年12月5日の記事からダイジェスト)
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