『必読』ダイジェスト 近年、欧米諸国は中国サプライチェーンの「リスク回避」政策を強化し、チェーンの多様化を図っているが、多くの事例が示すように、中国サプライチェーン覇権は、当面、揺るぎないものであることがわかる。
中間財は中国の切り札
グローバル化の進展で各国の多国籍企業は研究開発と生産ネットワークを再構築し、それぞれの国や地域の資源と生産能力の優位性を活かし、複雑な国際分業システムを形成している。中間財(他の製品やサービスを生産するための一次製品や工業リサイクル品)は規模と専門化を通じ世界的な産業競争舞台で中心的な役割を担ってきた。2013年、中間財の輸出は世界の総輸出の58.8%を占め、その後、若干の減少が見られるものの、依然として世界貿易額の半分以上を占めている。中国は中間財の生産と輸出でも王者の座を占めている。
現在、中国は12年連続で世界最大の中間財輸出国の地位を維持し、製造業の中間財貿易は世界シェアの約20%を占めている。中国の税関データによれば、中間財貿易は中国の対外貿易の成長で約60%の貢献率を示す。
信用格付機関「フィッチ」(Fitch)の最新分析によると、中国の世界における製造業付加価値におけるシェアは増加し続け、2022年には約30%に達した。中国中間財生産の主導的地位は完成品分野よりもさらに顕著だ。
ドイツを例に取ると、同国製ノートパソコンの85%、自転車フレームの75%、ベビーカーの87%、風力タービンの原材料、医薬品の半製品、レアアース製品、ソーラー電池などに使われる中間財の多くが中国製に依存している。
この状況は他のヨーロッパ企業にも当てはまる。欧州中央銀行の最新レポートによれば、「ヨーロッパ企業の半数近くが中国から生産活動に不可欠な中間財を購入しており、80%の企業トップは、これらの中間財を確保できなくなった場合、短期間のうちに代替供給者を見つけるのは困難」と指摘する。
デカップリングの代償は深刻
欧米諸国は中国サプライチェーンへの依存にはリスクがあるが、中国とのデカップリングも同様に大きなリスクを伴うと考えている。
オーストリア経済研究所(WIFO)のレポートによれば、中間財貿易で中国とドイツは相互依存しており、デカップリングはドイツ企業のサプライチェーンを断つことになり、生産活動に支障を来たす可能性がある。特に自動車、機械、新エネルギー分野で中国の中間財および市場への依存度が高いため、デカップリングすれば生産の停滞や売上の低下など経済面への影響が顕著になりそうだ。
同レポートによると、ドイツ自動車産業界では75.8%の企業が中国の中間財に依存し、海外投資の30%が中国にあるのに対し、米国ではわずか16%である。これが、EU(欧州連合)が中国のEV(電気自動車)に対するアンチダンピング調査を開始した際、自動車業界が強く反対した理由でもある。
ドイツ風力発電大手エネルコン(EnerconGmbH)社のCEOゼスキー氏は、同社の発電機に必要な永久磁石はすべて中国からの輸入であることを明らかにした。同氏は「この永久磁石のお陰で、より小型、高出力、効率の良い発電機を製造することができる」と語る。現在、永久磁石の代替供給ルートはほぼ存在せず、ヨーロッパで鉱床を探査し、採掘、精錬、最終製品の製造に至るまでには、少なくとも10~15年かかると指摘した。
中国とのデカップリングは、ドイツで経済的なパフォーマンスに悪影響を及ぼす可能性がある。実質的な付加価値や利益の減少、競争力の低下などが発生し、ひいてはドイツ全体の経済成長と福祉水準にも影響を与えることになるだろう。ハンブルク港のティツラス(Titzrath)CEOは、「中国は世界経済の20%を占め、避けることのできない国である。中国とのデカップリングはドイツとヨーロッパの繁栄を失うことを意味する」とも述べている。
ドイツのキール世界経済研究所(IFW)エコノミストのサンドカンプ氏は、「中国とのデカップリングによって、ドイツは長期的に約1%の経済生産を失い、毎年400億ユーロの減少が見込まれる」と指摘。「短・中期的には多くの生産現場でボトルネックが発生し、一部企業は倒産する可能性があり、中間財の供給不足はエネルギー転換や自動車産業の電気化を大幅に遅延させる」とも予測する。
「偽の多様化」現象
中国製造(メイド・イン・チャイナ)のスケール、コスト、サプライチェーンの優位性によって、欧米諸国の多様化やリスク回避政策は必ずしも中国の付加価値製品の輸入を真に削減しているわけではない。むしろ、中国製中間財を使用した製品を欧米に輸出する「経由国」の増加を促進し、「偽の多様化」が起こっている可能性がある。
例えば、中国は対ベトナム輸出製品の大部分が中間財であり、ベトナムはこれらの中間財を組み立て、再生産した後で米国に輸出している。これにより、ベトナムの対米貿易額が増え、中国の産業付加価値が米国の輸入製品において依然として高い割合を維持していることが分かる。
東南アジア諸国では、2021年、インドネシアの中間財輸入に占める中国製造の割合は33.8%、ベトナム29.5%、タイ28.0%、フィリピン26.9%、マレーシア17.4%だった。
中国とASEAN(東南アジア諸国連合)の中間財貿易総額は2023年には4.13兆元に達して過去最高を記録し、双方の貿易総額の64%を占めた。中国はこれらの国々への供給と生産で強い影響力を有しているため、ドイツやヨーロッパの企業がこの地域に生産拠点を設ける際、中国製中間財やサプライチェーンへの依存から脱却することは困難だろう。
中国税関総署のデータによれば、今年第1四半期、中国の「一帯一路」沿線国への中間財輸出は前年同期比18.2%増の1.1兆元に達し、これらの国々への輸出総額の半分以上を占めた。
(『日系企業リーダー必読』2024年9月20日~10月5日の記事からダイジェスト)
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