『必読』ダイジェスト 2023年12月9日、中央財経大学の中国人的資本・労働経済研究センターが発表した『中国人的資本報告2023』(以下、『報告』)は、1985年から2021年において、農村、都市にかかわらず全国で、労働力人口の平均年齢が上昇傾向にあることを指摘した。
『報告』によると、全国の労働力人口の平均年齢は1985年の32.25歳から2021年には39.42歳にまで上昇し、そのうち都市では同平均年齢が1985年の33.03歳から2021年には39.16歳に上がり、農村では1985年の31.99歳から2021年には39.82歳に達しているという。そして、地方では男性の労働力の平均年齢が40歳を超えており、40.39歳となっている。
同機関が発表した過去の中国人的資本報告によると、2016年から2020年まで、全国の労働力人口の平均年齢はそれぞれ37.3歳、37.7歳、38.4歳、38.8歳、39.0歳だった。毎年0.5歳前後の速度で上昇し続けている。
人口の高齢化、特に生産年齢人口の高齢化は社会イノベーションの抑制に作用し、近年になって次第に学術界で深刻に受け止められるようになっている。著名な人口学研究者で、中国最大手のオンライン旅行会社・携程旅行(Trip.com)の創業者である梁建章氏は、中国国内で比較的早い時期に高齢化と社会イノベーションについて深く研究してきた学者の一人だ。2007年、梁氏が米国に留学し経済学の博士課程で学んでいた頃、梁氏の指導教授は米国の人的資源経済学の権威であるエドワード・ラジアー氏(Edward Lazear)で、梁氏の研究の方向性はイノベーションと起業に定められた。
梁氏は多くの国々のデータを分析することによって、イノベーションおよび起業と人口構造が大きく関係していることに気づいた。その後、梁氏の博士論文の一つは、人口構造がイノベーションの活力に及ぼす影響に関する研究となった。梁氏は例を挙げて、「米国企業全体の7、80%はこの2、30年の間に最も若い企業家が創業したものであり、ひいては業界全体を切り開いたが、その一方で、日本では老舗企業の特許申請が続き、いくらかのイノベーションはあるものの、米国の新興企業によって次々に劣勢に立たされ、今では困難に直面している」と語っている。
2018年、梁氏は人口学の専門家である黄文政氏との共著『人口創新力』と題する本の中で、人口規模および年齢構造とイノベーションの関係について深い研究を行っている。梁氏と黄氏はイノベーションに影響を及ぼす様々な要素の中で、人口規模と人口構造がより大きな作用を及ぼすという認識を示した。
黄氏はかつて中国メディアに対し、梁氏と黄氏がこの本を通じて伝えたかった重要な観点とは、「養老(老後の生活や介護)に対する高齢化の悪影響は穏やかで、制御可能」だと語っている。例えば、高齢化が進む国では、定年の延長により公的年金負担の問題がかなり緩和されている。しかし、高齢化にさらに存在している最も補うことのできない弊害とは、社会全体の起業精神とイノベーションの活力が減退することだ。
黄氏によると、新たな技術の習得や新たに会社を創業する能力について言えば、より創造力を有するのは30代の年齢層だ。人類は20代に入ると体が最も元気でたくましい時期を迎えるが、イノベーションの精神や精力が最も旺盛になる時期は30代だ。発明家や科学者が最も創造力を発揮する時期は30代であり、大半の起業家も30代の頃に会社を創業している。
黄氏は、「イノベーションと起業に対する高齢化の悪影響は非常に大きいかもしれない」と警告を発している。社会で若年層が減少しており、若年層特有の活力も減退している。その主な要因は、高齢化社会において、若年層の昇進する機会が高齢者に押さえられていることにある。高齢化社会では、若年層の労働者が組織において占める職位は非常に低く、社会的な発言権も弱く、習得できる労働面での技能も少なく、自由に使える経済資源にも限りがある。
日本やその他の先進国のデータを分析することによって、梁氏と黄氏は、人口が高齢化している国では、起業活動が顕著に弱いことに気づいた。例えば、90年代以降、日本における人口の高齢化は急速に進んでいるが、これに伴って過去25年間に経済が衰退している。
梁氏と複数の学者は、かつて世界のトップ経済学術誌の1つである『ジャーナル・オブ・ポリティカル・エコノミーJournal of Political Economy)』に論文を発表し、その中で高齢化社会に見られる一つの重要な現象について深く掘り下げている。その現象とは、抑制(ブロッキング)効果(The Rank Effect)であり、つまり高齢化の人口構造がすべての年齢層の起業傾向と比率を低下させているということだ。
同論文によると、世界83ヵ国に住む15歳から60歳までの年齢層130万人を対象に起業活動の基本的な情報を研究したところ、高齢化国家の企業では、高齢化した職員構造が際立っており、それは即ち企業内の上級および重要なポジションは往々にして高いキャリアを持つ年配の職員が牛耳っている。人口増加が緩やかになるにつれ、高齢化水準もますます深刻になり、若年層の労働者の比率はますます減少する。
このことは、他の条件が同じであっても、若年層の人々が起業に必要な業界経験を積む上で有利な職位に昇進するのにより長い期間を要することになり、人的資本の蓄積が遅れることを意味する。そして、高齢化の人口構造がすべての年代の起業傾向と比率を下げている現象を、研究者は「抑制効果」と呼んでいる。この「効果」は個人の起業活動に対して社会の人口構造が影響を与える過程を解説するものであり、人口経済の研究に新しい視点を提供している。
中国の労働力人口が40歳に迫っているという状況について、黄氏は、「これによって社会全体のイノベーションの精神および起業の活力がいっそう弱まり、経済の持続的かつ健全な発展において不確実性が増す可能性がある」と語っている。
しかし、一部の学者は梁氏の観点とは異なる見方を提起している。中国社会科学院の蔡昉副院長は、「個別に見れば、年齢が上がったからといって創造力が低下するわけではない」と言う。蔡氏は例を挙げて、「ノーベル賞受賞者の受賞年齢は長年にわたって常に高齢だ」として、「社会的な側面から見て、高齢化自体が全体的な創造力の低下をもたらしているわけではない」と述べる。
これに対し、梁氏は「大量のデータが示すように、最も画期的な科学研究の大半は若い科学者によって成し遂げられているが、これらの若い科学者たちがノーベル賞を受賞するのに7、80歳になるまで待たなければならないだけかもしれない。また最も革新的なハイテク企業は一般的に若い企業家によって創業されている」と指摘。例えば、世界で時価総額が最高のハイテク企業20社はほぼすべてが若者によって創業されている。
(『日系企業リーダー必読』2023年12月20日の記事からダイジェスト)
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