『必読』ダイジェスト 月刊『中欧商業評論(中欧ビジネスレビュー)』2023年8月号に以下の記事を掲載した。著者は上海生和精密機械有限公司副総経理の梁陽氏。『必読』編集部が翻訳・転載の際に一部削除した。

2023年、比亜迪(BYD)、埃安(AION)、理想(Li Auto)などの新エネルギー車(NEV)ブランドの販売台数、輸出量が軒並み急増し、中国の自動車ブランドは「最高の瞬間」を迎えた。外資系自動車メーカーに押されて数十年後、本土の自動車メーカーはNEVで逆風のなかでの巻き返しを果たした。

それと同時に、外資系の電気自動車(EV)が「無名ブランド車」に転落していると信じる人が増え、馬鹿にするにおいがするようになった。本当にそうなのだろうか。自動車業界に長年身をいてきた筆者が見てきたのは、本土の自動車メーカーが外資系メーカーを追い抜くまでには程遠いということだ。客観的に言えば、われわれは人材、材料、製造、産業チェーンなどの面で外資自動車メーカーよりもはるかに遅れを取っている。

材料と技術に依然として大きな隔たり

消費者が自動車を購入する際に車体材料の問題を考えることは少ないため、中国のNEVブランドは見えるところに工夫を凝らし、内装は外資系自動車メーカーよりも優れている。だが自動車産業にとって、車体材料は品質のカギを握るものだ。車体製造の素材面では、本土系自動車メーカーと外資系自動車メーカーには依然大きな差がある。

車体材料は自動車の後期の使用寿命、外観ペンキの劣化度合いを決めるだけでなく、自動車の主体構造を決めるカギでもある。

まず材料の選択で、車体の外板部品は非常に強い可塑(かそ)性と十分な強度と強靭(じん)性が必要で、これは素材の特性を决定づける。ドイツ車の外板部品の厚さは0.75mm前後で、この板材は輸入したロール材を採用する必要があり、国内の技術ではその使用ニーズを満たすことができない。国内の材料を使っても、外板の品質やプレス後の強度や強靭性が大きく損なわれる。これはまさに材料の違いだ。

筆者はかつてドイツ車の生産ラインプロジェクトに関わったことがあり、廃棄されたドイツ車の外板部品が屋外に2年以上放置されているのを目にしたが、風雨にさらされても錆びや腐食の現象がない。これこそが材料の技術レベルである。また、車体内板の内部構造もすべて高強度性能鋼板を車体の骨格に採用している。材料は国内の製鉄所で生産されているが、その材料の調合と材料の性能要求は規定の指標よりはるかに高い。これはまさに規格の強みだ。

車は住宅のようなもので、内装は装飾で、車体は本体だ。内装がどんなに良くても、住宅本体の材料がしっかりしていなければ、最終的に寿命を減らすことになる。これは材料の差であり、工程の差でもある。

車体材料や車体フレームの重要性を重視しなければ、今後さらに大きな問題に直面することになるだろう。それもあって、外資系自動車メーカーはNEVメーカーを心配しておらず、さらには、テスラを除くすべてのNEVブランドは脅威になりにくいと考えている。なぜなら、テスラはNEV車ブランドのなかで、車体材料と車体工法を最も重視している唯一の企業だからだ。テスラは豪華な内装を施さないが、同社の販売台数は彼らの足元にも及ばないのは確かだ。

材料、とくに車体の鋼材に力を入れなければ、わが国のリードも一時的なものに終わってしまう。自動車は「陸の工業の真珠」であり、車体はフレームであり、それぞれのエリアでどの鋼材を選び、どこで溶接し、どこで継ぎ手(ラップジョイント)するか、スポット溶接をいくつ採用するかなどに理論的根拠があるからだ。だが、わが国は他国がどうしているかを見て踏襲するだけで、結局、事情は知っているが、その原因はわからないということになる。

製造能力の向上が待たれる

フォード車が生産ラインで生産されるようになってから、大規模化は車のコストを決めるカギとなった。自動車の製造能力が高ければ、率先して規模の経済を実現し、コストリーダーの優勢性を得て、さらに市場の指導的地位を得ることができる。NEV時代でも、製造能力は依然として国産自動車全体の発展を制約する重要な要素であることは明らかだ。

現在、市場で優位に立つ外資系自動車ブランドはいずれも独自の製造優位性を持っており、これは大部分の本土自動車メーカーが追いつけないものだ。外資系自動車製造の自動化度は85%以上に達している。原材料の入庫から完成車のラインオフまで、高度に統合された自動化が製造スピードを上げるカギとなる。外資系自動車メーカーの自動化生産ラインにはさまざまな製造上のメリットがある。

外資系自動車メーカーの製造・生産ラインは高品質・高精度・高信頼性を旨とする。溶接工場では、設計開始から本格的な生産に至るまでのすべての規格が工場の要求に合致している必要があり、部品の精度と調整残量は、成形品1個1個のスペーサーに遡ることができる。すべての工具は品質と性能の上で高規格という使用要求を満たして、こうした高精度、高質の生産ラインは製造能力を確保する重要なポイントだ。

外資系自動車生産ラインで使用する外注部品及び標準部品は必ず規格に合致しなければならず、位置決めピンとプレスブロックは硬度が基準に達していないならば使用することが許されない。例えば、すべての機械の設置は、工場内の規格を満たしていなければならない。基礎ボルトの高さにさえ規格がある。すべての電気配線は要求通りに行う必要があり、異なる線種は仕切り板を設置して隔離する必要があり、それぞれの外部配線の結束方式には厳格な要求がある。こうした高い要求、高い基準の措置が、製造能力を確保するためのカギとなっている。より重要なのは、すべての段階に対応する従業員が規格に基づいてねじ一つ一つを審査して検収するという働き方だ。これこそが高い質の自動車生産ラインの規格だ。

外資系自動車は自動化度が高い。自動化生産ラインは自動車製造のカギであり、自動化生産ラインは主に製品の標準化生産と高品質生産を実現する。高度な自動化により、作業者はより的確かつ効率的に製品の据え付けを完了できる。

例えば、溶接現場では、溶接生産ラインはすべて高度な自働化生産を実現したが、ヒトの介入が必要な重要な部分を除く、ほかの部分はすべて自働化生産だ。大量の人員に頼る組立現場でも、外資系自動車メーカーは自働化を十分に考慮し、人的労働の代替や軽減が可能な場合は自働化装置を採用している。

中国の自動車メーカーは自動車の自動化工場について、自動化による人手の代替と使用人手の削減を挙げている。だが、外資系工場の自動化は製品の品質向上と労働者の労働軽減を基本としており、自動化のための自動化ではない。彼らの目的は、労働者が快適な作業環境の下で生産を行うのをいかに保障するかにある。だから、効率的な自動化はハードパワーづくりのカギであり、快適な作業環境の下で、労働者が一つ一つの作業を丁寧にこなすことはソフトパワーづくりを具現化している。

外資系自動車の長い生産ラインは柔軟性が高い。外資系工場の同一生産ライン内で3車種から6車種を自由に切り替えられるようになり、製造能力と市場ニーズへの対応能力が大幅に向上した。自動車製品が市場に支持されるためには、コストパフォーマンスの高さに加えて、さまざまなテイストの消費者のニーズに応えられることが重要だ。

外資自動車メーカーの生産ラインでのフレキシブル生産への投入は、多車種生産へのサポートの中核となっている。車種によって外観が異なるため、これらの外観の異なる車種を生産するには、対応する異なる生産ラインが必要となる。外資系自動車メーカーの生産ラインは設計当初から、同じ生産ラインで複数車種の混合生産を可能にすることを明確にしており、プロジェクトの投入を減らし、車種の供給量を増やすことを図っている。

車種を更新する際は、既存の生産ラインでいずれかの車種を休止するかどうかを決めるだけでよい。新モデルの設計では、新モデル用の基礎部品を投入するだけで新モデルを生産することができ、プロジェクトへの投入を大幅に削減することができるとともに、新モデルへの迅速な投入が実現できる。これは外資系自動車メーカーのフレキシブル製造における強みだ。

産業チェーンが十全化していない

産業チェーンは最適な価格で資源(リソース)を獲得し、最小の代価で新製品を研究開発し、最速のスピードで市場に打って出て、最低の価格で市場の優位性を獲得できるかどうかを決定づける。

外資系自動車メーカーは100年もの自動車製造経験を持ち、多くの良質なサプライヤー資源も蓄積しており、より整った産業チェーンを構築することができる。中国のNEVメーカーにとって、これらのサプライチェーン資源はカネだけで手に入れることができず、少なくとも短期的に得ることはできない。

どのようにして最適な価格で資源を入手するのか。外資系自動車メーカーは100年のサプライチェーン構築システムを持っている。これらの利点は、長期的な提携であり、サプライヤーの信用格付けが高ければ、より長い支払い期間とより有利な価格を提供される。なぜなら、サプライヤーにとって外資系自動車メーカーの将来は確定的であるのに対し、中国のNEVメーカーは将来の経営サイクルさえも確定的でないため、十分な価格優位性や資源を得ることができないからだ。

どのようにして最小限のコストで新製品を開発するか。新製品の研究開発はサプライチェーンの協力にあり、外資系自動車メーカーには十分な価格優位性と技術的優位性がある。新車を開発する際、外資系自動車メーカーには十分な技術、研究開発・管理の人員、および十分な関連サプライヤーがあり、研究開発を迅速に開始し、研究開発を製品化することができる。一方、中国のNEVメーカーはそうではなく、技術者から管理者および関連設備などに至るまで、すべて一から作り上げる必要があるため、時間がかかりすぎて代価となるコストが高止まりしている。

どのようにして最速で市場に打って出るか。自動車メーカーが必要とする製品を最速でまとめて届けることができるのは、産業チェーンの最大の強みだ。外資の自動車メーカーは安定と最高の質のサプライチェーンを持っていて、これらのサプライヤーは自動車メーカーの需要を適時に満たすことができ、さらに言えば、すべての部品が総工場の外で待って自動車メーカーの「召喚」を待つことができる。注文が入ると、入口に停まっているトラックがすぐに製品を倉庫に運ぶ。総じて言えば、本土の自動車メーカーはそのような能力を持っていない。

(『日系企業リーダー必読』2023年9月5日記事からダイジェスト)

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