『必読』編集部は、3日付けの英『フィナンシャル・タイムズ』に掲載された「世界のエネルギー新秩序が形成されつつある」と題する記事を以下に抜粋し、読者の皆さんにお届けする。

1945年2月14日、フランクリン・デラノ・ルーズベルト米大統領(当時)は、米巡洋艦「クインシー(USS Quincy)」上でサウジ国王と会談し、過去70年間で最も重要な地政学的連合の1つをスタートさせた。彼らが合意したこの「ビッグディール(Big deal、大取引)」は、米国がドルとリンクされた石油と引き換えに中東の安全を保障することを意味する。

だが時は流れ、中国と中東が構築した新たな世界エネルギー秩序の原型が明らかになったことで、今年はこの「ビッグディール」が転換し始める年として記憶されるかもしれない。クレディ・スイス(Credit Suisse)の報告書では、中国の習近平国家主席が昨年12月にサウジアラビアと湾岸諸国協力会議(湾岸協力会議、GCC)首脳と会談することは「ペトロ人民元の誕生」を示すものだとしている。報告書は、「中国は世界のエネルギー市場のルールを書き換えることを望んでいる」と述べている。

これは実際に何を意味するのか。まず、多くの石油貿易が人民元で決済されるようになる。習主席は、今後3年から5年で、中国はGCC諸国からの輸入を大幅に増やすだけでなく、「全方位のエネルギー協力の枠組み」を構築する必要があると述べた。南シナ海などでの共同探査・生産や、製油所、化学工場、プラスチック・プロジェクトへの投資にもかかわる可能性がある。北京では、早ければ2025年にも上海石油天然ガス取引センターでの人民元決済を実現したい考えだ。

このことは世界のエネルギー貿易の大きな転換を示すだろう。クレディ・スイスの報告書が指摘しているように、ロシア、イラン、ベネズエラは世界の石油確認埋蔵量の40%を占めており、これらの国はいずれも中国に大きく値引きした石油を販売している。GCC諸国は確認埋蔵量のさらに40%を占めている。残りの20%は、北アフリカ、西アフリカ、インドネシアにあり、いずれもロシアと中国の影響力が及ぶ範囲にある。

ペトロ人民元の台頭や、ドルベースの金融システムの全体的な地位が低下することに疑問を感じている人々は往々にして、「中国は米国と同水準の世界的な信頼、法の支配、または準備通貨の流動性を享受していないため、他国が人民元で貿易しようとする可能性は低い」と指摘する。

その通りかもしれないが、石油市場を主導している国々と共通点が多いのは、米国よりも中国だ(少なくとも政治経済の面では)。さらに重要なのは、中国がある種の金融セーフティネットを提供しており、(人民元を石油決済通貨として受け入れている国は)上海や香港の金取引所で人民元を金に交換できるようになっていることだ。

人民元が国際準備通貨としてドルに取って代わることができるわけではないが、政策立案者や投資家にとって、ペトロ人民元貿易は依然として経済面・金融的潜在面での重要な影響力を持つ。

まず、安価なエネルギーの将来性はすでに欧米の工業企業を中国に引き寄せている。ドイツのBASFの最近の取り組みを考えてみよう。ルートヴィヒスハーフェン(Ludwigshafen)にある主要工場を縮小し、化学事業を中国の湛江に移転する。中国は安価なエネルギーをエサに、より付加価値の高い生産を国内に呼び込もうとしている(多くの欧州メーカーも、エネルギーコストが安い米国で雇用を増やしている)

政策立案者やビジネス界のリーダーは何をすべきか。もし私が多国籍企業のCEOなら、多極化したエネルギー市場を回避するするために、できるだけ多くの生産のリージョナル化及びローカル化(地域化及び現地化)の道を探る。

もし私が米国の政策立案者なら、短中期的に様々な措置を講じて北米のオイルシェールガスの生産量を増やし(そして欧州のバイヤーには値引きし)、同時にグリーンエネルギーへの移行を加速することを考えるだろう。石油人民元の台頭は、米国と欧州が早急に化石燃料から脱却するインセンティブになるはずだ。

(『日系企業リーダー必読』2023年1月5日記事からダイジェスト)

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