研究院オリジナル 2023年2月前半、中国メディアの報道や評論は以下の日本企業および出来事を多く取り上げた。

ソニーが生産能力の一部を中国から移す理由

20年間、中国と深くかかわってきたソニーは先ごろ、中国にある国外販売用カメラの生産ラインを、中国国内で販売するカメラの生産ラインのみを残してタイ工場にシフトさせることを決めた。このことは、日本企業の注目を集めた。ソニー公式には「引き続き中国市場に注力しており、中国から撤退する計画はない」としているが、中国工場が今後生産ラインを閉鎖する可能性を排除していないとの見方が広がっている。

多くのメディアは、ソニーの撤退はまず米中競争の地政学的な理由抜きに語れないとしたほか、中国での新型コロナ感染拡大もソニーに製造能力の分散によるサプライチェーンのリスク軽減を検討させるきっかけになったとの見方を示した。だが、中国メディアの多くは、中国の人件費の急激な上昇が最も主な原因だと見ている。実は、中国の日系企業は早くから移転を始めており、2008年の世界金融危機の後には中国から撤退し始めている日系企業もある。外資系企業の中国からの撤退だけでなく、多くの中国企業の海外への移転の背景には、中国でのコストが増加し続けていることが大きな共通の原因となっている。

だが、中国メディアの多くは、中国から東南アジアやインドなどへ製造業をシフトさせる傾向になっているようだが、中国は成熟し整った産業チェーンと付帯システムをもっており、世界の工場の地位が完全に取って代わられる可能性は低いと指摘する。

厳しい状況にあるホンダ中国、もう躊躇しない

ホンダ中国はこのほど、本田技研科技(中国)有限公司(HMCT)がホンダ生産技術(中国)有限公司(EGCH)と合併し、2023年4月1日から新組織運営体制を実施すると発表した。同時に人事にも大きな動きがあり、井上勝史・現ホンダ中国常務執行役員兼中国本部長が退任し、後任に五十嵐雅行氏が就任する。新組織運営体制への変化の重点は、電動事業開発本部を新設し、電動(EV)化事業の推進を加速させることだ。これは今回のホンダの大規模な組織調整の中心である。

中国メディアの多くは、ホンダがこのような大きな改革を行ったのは厳しい市場情勢に迫られたからだと見る。ホンダ中国の2023年1月の自動車末端販売台数(ディーラーが消費者に販売した台数)は前年同月比56.22%減の64,193台で、急激に落ち込んだ。2022年の年間販売台数は前年比12.07%減の137万台にとどまり、低迷している。また、同社は中国の自主ブランドである吉利やBYDなどにも追い抜かれた。ホンダは長期にわたってハイブリッド戦略をとってきたが、新エネルギー車(NEV)市場ではライバルに遅れをとっている。

業界内では、現在日系ブランドはすでに躊躇することなく、全力でEV化にかけているとみられているが、BYDやテスラなど業界のトップランナーを前に、日系ブランドが失地を回復するにはこれまで以上の努力が必要だ。

「日中ハーフ」アルトが日本国内の自動車市場で逆襲

中国の上場企業である阿爾特(アルト)はこのほど、100%子会社の阿爾特日本が中国国内の完成車メーカーと提携し、日本のNEV市場に進出すると発表した。アルトは完成車のOEM向けシステムソリューションを提供する企業で、日本との関係が非常に深く「日中ハーフ」と呼ばれる企業であることから、中国メディアは日本の自動車市場における新手のライバルと見ている。

阿爾特公司の創業者である宣奇武氏は清華大学自動車工学科を卒業後、九州大学で工学博士号を取得し、1998年から2002年まで三菱自動車の開発本部長を務めた。こうした背景から、阿爾特公司と日本の自動車産業界との関係は非常に深い。阿爾特は電気自動車(EV)の技術やシステム生産分野で代表的な多くの日本企業と合弁会社を設立したり、戦略的提携を締結したりしており、本田技研工業も阿爾特の株主の1人となっている。

昨年の第20回広州国際モーターショーで注目を集めた阿爾特の新しい旗艦車種「TRUCK-MAD」は、日本の「国宝級」のカーデザイン巨匠・中村史朗氏の工房とアルトが共同で完成させた。中村史郎氏は「GT-Rの父」「日本最高のカーデザイナー」と呼ばれる。昨年11月には、阿爾特日本はまた、歴史ある日本の上場企業ヤマト・インダストリーの株式を取得した。同社は、自動車用合成樹脂分野で強力な技術とチャネル資源を蓄積しており、今後、阿爾特の自動車軽量化を技術面で支え、日本で自動車の完成車と部品関連事業を一層開拓するための実用的なプラットフォームを提供することになる。

コスト圧力がヤクルトに値上げ迫る

ヤクルトは、中国全土で販売している乳酸菌飲料「ヤクルト」と「ヤクルト低糖」の2商品の販売価格を1月から引き上げると発表しており、今回の値上げは広州地区では2015年1月以来、広州以外では2018年1月以来となる。

今回の値上げは主に原材料価格の上昇が原因だ。ヤクルトは、2022年度通期の海外事業で、原材料価格の上昇が利益を33億円押し下げると予想している。収益状況改善のため、値上げは中国市場だけではなく、メキシコ、インドネシア、米国市場で販売されているヤクルト飲料製品を含め、2022年に値上げが完了している。ヤクルトだけでなく、最近は中国飲料トップ企業の農夫山泉もコスト上昇を受けて値上げしている。

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