『必読』ダイジェスト 深圳は外資に好まれる都市か?

データの総量から言えば「イエス」だ。例えば、2015年からの7年間、深圳の外資実質利用額はそれぞれ、65億ドル、67億3200万ドル、74億100万ドル、82億300万ドル、77億1000万ドル、86億8300万ドル、11億200万ドルとなっている。2021年には過去最高の100億ドルを突破した。

だが、その外資がどこから来たものかを分析すると、非常に奇妙なことがわかった。2015年以降の毎年の海外直接投資(FDI)トップ5は、香港のほかに、最もよく見られるのは英領バージン諸島、ケイマン諸島などのオフショア金融センターで、シンガポールもたまにトップ5に入ることはあるが、米国、日本、欧州がトップ5に入ることはほとんどなく、トップ10にさえ姿を見せていない。

これらのオフショア金融センターには、香港やシンガポールを含め、中国ローカルの資本が外に出て回り道をしてからFDIとして入ってくるという「ニセ外資」の要素が大きく含まれていることはよく知られている。また、近年、深圳が受け入れたFDIのうち、不動産業投資が常に第1位であり、不動産業を含むサービス業投資が占める割合は約80%に達しているが、科学技術製造業の多国籍企業の姿は見当たらない。

なぜそうなったのだろうか。

家電時代、日系企業は中国北部への投資を好む

1980年代には、日系家電大手が中国大陸に生産拠点を構えることはほとんどなく、日本で生産したものを中国大陸に輸出していた。日系をはじめとする外国ブランドが80%のシェアを占めていた。

1996年以降、中国のローカルブランド家電が台頭し、康佳、創維(スカイワース)、TCL、長虹、海爾(ハイアール)、海信(ハイセンス)という「ビッグ6」を形成した。日系企業を主とする外国ブランドの市場シェアは急速にこの中国系「ビッグ6」に奪われ、2010年までに、その中国における市場シェアは20%まで低下した。さらに、中国系カラーテレビ大手が国際市場に参入し、日韓のカラーテレビ企業と競争するようになった。その過程において、日系カラーテレビ企業は中国に生産拠点を設けて自社の生産コストを引き下げることを余儀なくされた。

興味深いのは、康佳、創維、TCLの「ビッグ3」の生産拠点が深圳地区に集まるようになってから、日韓などのカラーテレビ大手が深圳にあまり投資しなくなったことだ。松下も東芝もシャープも、ソニーもサムスンも、好むのは中国北部への投資だった。

例えば、松下電器が1980年代末に中国で合弁工場を設立するようになった時には、北京市と天津市を選んだ。その後、松下電器は中国大陸に80社以上の企業を設立し、上海、済南各地で事業展開したが、深圳にはほとんど進出していなかった。

東芝は1991年に大連にテレビ工場を設立し、杭州に輸出拠点を築いた。東芝は中国の24都市に33の工場と研究開発機関を相次いで設立したが、いずれも深圳とは関係がなかった。その後、東芝は中国の電化製品の生産工場を閉鎖し、すべてベトナムに移転、研究開発と精密部品生産は(日本)国内に回帰した。

シャープは中国本社を上海に置き、生産拠点は上海市や常熟市などに置いている。

ソニーの中国での投資総額は8億ドルを超え、カラーテレビ関連の生産拠点は主に上海市、江西省、廈門(アモイ)市にあり、広東省では中山市にテレビ工場を投資し、恵州市に部品工場を建設した。

コンピュータ時代、多国籍企業が進出し撤退していく

1990年代に入ると、深圳と周辺地域のコンピュータハードウェア製造業も急速に発展してきた。当時、深圳は多国籍企業のIT大手からとりわけ重視されていた。だが、現在の深圳では、こうした多国籍企業の姿を見かけることはほとんどない。

これらの大手多国籍企業の大半はみな中国を離れてはいない。多くのブランドのコンピュータ企業は自社で生産するのではなく、OEM工場にアウトソーシングしていて、依然として中国各地に多くの工場と研究開発センターを持っているが、それは深圳ではない。

1995年、米国系コンパック(Compaq、株式の90%を占める)と中国四通集団(株式の10%を占める)は合弁でコンパックコンピュータ技術(中国)有限公司を設立し、深圳華僑城東部工業区に、1本の本体組立生産ラインと3本のコンピュータ電源生産ラインを含むコンパックの世界第5の生産工場を設立した。だが、2001年にHPがコンパックと合併すると、深圳工場は廃止された。HP自体は上海市、重慶市(2010年)にパソコン生産拠点を持ち、台湾の精英(エリート)、和碩(ペガトロン)、富士康(フォックスコン)がOEM工場としている。

中国恩普(深圳)有限公司が1988年に設立され、インテグレータ、医療製品、ケーブルを生産している。だが、1992年にHPが北京市に中国本社を設置すると、HPの中国での生産の中心は、青島市、上海市を含む華北と長江デルタにシフトした。1996年、中国恵普(深圳)有限公司がSMK会社に株式を譲渡した後、HPが再度深圳に投資することはなかった。

遅い時期に深圳に工場を設立したデル(Dell)は、2004年にアモイに移転し、2005年に第2工場を設立し、2010年には売上340億元を達成した。

大手米国企業のうち、IBMは深圳に最も影響を与えているコンピュータ会社だ。1994年に中国の長城コンピュータグループと合弁会社を深圳に設立して以降、IBMの中国投資の半分が深圳に集中している。IBMグローバル調達センター本部、グローバルサービス執行センター本部をいずれも深圳に置いた。このことから同社の深圳への愛着がうかがえる。

レノボ・グループが2004〜2005年にIBMのパソコン事業を買収した後、IBMの深圳工場はすべてレノボの生産拠点となっていた。レノボが深圳工場の閉鎖を計画していると噂されてきたが、レノボは否定し続けた。レノボが20億元を投じてつくった南部インテリジェント製造拠点が2020年3月に深圳で着工したことで、このような噂には完全に終止符が打たれた。

日本リコーは1991年1月に深圳市皇崗北路に生産拠点を建設し、コピー機、ファックス、プリンタ、軽量印刷機及びその部品の生産をメインとし、投資総額は7000万ドルに達した。その後、宝安区福永街道にリコー工業団地を設立した。2020年までに、リコーは皇崗北の工場を閉鎖し、東莞市に移転した。

世界的な携帯電話会社の「ひいき」は天津

1990年代末に携帯電話産業が台頭し、華為(ファーウェイ)のスマートフォンが世界3位になるまでの長い間、中国と世界の携帯電話市場を席捲していたのはモトローラ、ノキア、シーメンス、エリクソン、ソニー、サムスンなどの大手外資系企業だった。これらの企業は中国における生産拠点として、概ね深圳を避けている。

1992年、モトローラは1億2000万ドルを投じて天津開発区に中国生産拠点を設立した。その10年後には、世界のモトローラの携帯電話の9割がここで生産されている。最盛期にはモトローラの天津への投資額は30億ドルを超え、中国での総投資額が一時フォルクスワーゲンを上回ったこともあった。

モトローラと深圳の重要かつ直接的な接点は、2003年に計画された75億ドルを投じるファーウェイ買収だろう。交渉が最終段階まで進んだ時、新たに就任したサンダーCEO(最高経営責任者)はファーウェイの提示額が高すぎるとして、同社の潜在的価値を見出すことなく、この取引を白紙に戻した。この決断はサンダーCEOが中国市場で犯した最も重大な過ちの1つだといわれる。

2007年、モトローラの中国地区事業は完全に崩壊し、覇者の地位はサムスンに取って代わられた。2002年にサムスン電子が中国に進出した際も、同じく天津を選んだ。2003年、天津で生産された携帯電話は5000万台で、中国全体の携帯電話生産量の25%を占め、一時は天津が中国の携帯電話製造センターの一つになったようであった。

ノキアは1994年に中国に進出したばかりで、2008年末まで北京市と天津市に工場を設立することを選択してきた。

エリクソンは1995年に北京を中心に中国に工場を設立し、ピーク時には北京の生産拠点で年間4000万台の携帯電話を生産していた。

シーメンスの携帯電話は1993年、中国生産拠点を上海に設立した。

30数年にわたって、家電、パソコン、携帯電話は、その時代を最も代表する三大製品であり、中国もこれらの製品の世界的な生産拠点であり続けてきたが、この三大製品を生産する大手外資系企業が深圳に工場を設立するのはまれだった。

世界的大手企業、「深圳再認識」の動き

総じていえば、2001年、つまり中国が世界貿易機関(WTO)に加盟した年が分岐点だった。

深圳に工場を設立している大手多国籍企業は多くはないが、2001年以前には、日本ではグローバルトップ500社の企業28社が深圳に投資、米国でも27社が投資しており、前述のIT企業のほか、米国のジョンソン・エンド・ジョンソン、ブリストル・マイヤーズ スクイブ、ワールプール、コダック、ダウなどの企業が深圳の外資系重点企業リストに入っていた。

だが、2001年以降、とくに2008年以降、深圳で比較的多額の投資を行った多国籍企業はほぼ数えるほどしかなく、同時期に多くの大手多国籍企業が長江デルタ地区、さらには中・西部地区でしばしば多額の投資を行ったのとは対照的だ。

それでも注目すべきは、2001年以降、多国籍企業に「無視」されていた深圳地区で、中国ローカルの民間大手科学技術企業が躍進し、深圳東莞-恵州地区に中国大陸で最も豊かなイノベーション・エコシステムを構築したことだ。

大手外資系企業には無視されたが、ローカルの民間企業には好まれている。この両者の間に一定の因果関係はあるのだろうか。そんなことを話題にする研究者もいるが、これまでこの現象を説明するための特別な理論は存在しなかった。

だが興味深いことに、深圳東莞-恵州地区はますます活気を増すイノベーション・エコシステムを背景に、2014年以降、一部のIT多国籍企業を再度の進出を呼び込んでいる。もちろん、今回はこの地方のイノベーション・エコシステムに注目しているのであって、20年前のように、低コストの製造要素だけに注目しているのではない。

「深圳再認識」という風潮を最初に巻き起こしたのは、インテルだろう。2013年にインテルのブライアン・クルザニッチ(BrianKrzanich)CEOが就任すると、深圳を立て続けに訪問し、2014年2月に年次情報技術サミットの会場を深圳に移して開催しただけでなく、初のスマートデバイス・イノベーションセンターを深圳に設立すると宣言した。クルザニッチCEOはまた、インテルが1億ドルを投資し、深圳に「インテル中国スマートデバイスイノベーション基金」を設立し、新たな市場機会を開拓すると高らかに宣言した。

インテルの後に続いて、クアルコム、マイクロソフト、アップル、アクセンチュア、ABBは相次いで深圳にイノベーションセンターを設立し、深圳のイノベーションセンターがグローバルな連携とイノベーションに位置づけられることを次々と宣言した。この傾向は今も続いている。

残念ながら、日本企業はこの流れに積極的に乗ろうとはしていないようだ。

(『日系企業リーダー必読』2022年8月5日記事からダイジェスト)

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