『必読』ダイジェスト ドイツのフォルクスワーゲンは政治的圧力に耐え、中国新疆の工場運営を続けている。これは最近の中国の外資系企業に関するニュースである。

9年前に中国新疆に開設したある工場のため、フォルクスワーゲンは最近、欧州で政治的圧力を受けている。ドイツのロベルト・ハベック(Robert Habeck)副首相兼経済・気候保護相はこのほど、「中国の新疆ウイグル自治区で活動する企業が(政府の)投資保証を延長しようとしたが、ドイツ連邦政府は“人権上の理由で初めて”同様の要請を承認しなかった」と述べた。この会社は、後にメディアによってフォルクスワーゲンであることが明らかになった。年初にテスラが新疆に新たな展示即売ホールを開設したことで米世論の「包囲攻撃」を受けたのに続き、新疆にある外資系企業が政治的圧力を受けたもう一つのケースとなった。

フォルクスワーゲンのヘルベルト・ディース(Herbert Diess)最高経営責任者(CEO)は5月30日付の独紙『ハンデルスブラット』で、「新疆にある工場を閉鎖することはない」と明言した。だが、フォルクスワーゲンは「強制労働の疑いはない」「工場の営業を続けさせようとしているだけだ」と慎重な発言をしている。また、フォルクスワーゲンが新疆に残留すれば、「地元の人々にとってもっとメリットがあるだろう」と語った。

ドイツ連邦政府が中国での投資保証をしなくなったからといって、フォルクスワーゲンが中国で投資を継続できなくなるわけではなく、中国工場の操業に直接影響するものでもない。ドイツメディアは、「これは、フォルクスワーゲンの中国への投資プロジェクトの一部がベルリンの政治的支持を得られなくなるということを意味するにすぎない」と述べた。「例えば、ある日突然フォルクスワーゲンの中国工場が中国に国有化されたり、直接没収されたりした場合、ドイツ政府はフォルクスワーゲンの損失を補償することもなければ、政治レベルでこれまでと同じように北京側に強い申し入れを行うこともないだろう」と述べた。

また、ドイツ政府が保証しなくなったことは、フォルクスワーゲンが中国の投資プロジェクトに資金を調達するとき、金融市場がこれらの投資プロジェクトのリスクが高まったと判断するため、これまでの優遇融資条件を得られなくなる可能性があることを意味する。

では、なぜフォルクスワーゲンはこうした優遇条件を放棄し、政治的圧力にも耐えてまで、中国での経営を続けているのだろうか。同社のディースCEOは、「中国は極めて重要な販売市場であるためだ。中国は今や世界最大の自動車市場だが、人口比で見ると、中国の1人当たりの自動車販売台数は依然として比較的低く、1000人当たりの自動車保有台数は250〜300台にとどまっている。ドイツは600台、米国は800台に達している」と述べた。「この一連の数字を見るだけでも、中国は依然として世界で最も重要な自動車の成長市場であると結論づけられる」と強調した。

また、中国はフォルクスワーゲンの重要な生産拠点であり、サプライヤーでもある。ディースCEOは『ハンデルスブラット』記者に対し、「中国を単なる販売市場と見なしてはならない」と語った。同氏はさらに、「中国は技術の上で全世界を動かすだろう。中国との“デカップリング(切り離し)”は、成長と技術進歩との“デカップリング”でもある」とも語った。

フォルクスワーゲンと中国経済の関係はドイツ企業の中では代表的なものだ。ミュンヘンに本部を置くドイツのIFO経済研究所が4月に発表した報告書によると、中国と輸入取引のある4000社のドイツ企業及び卸売業者・小売業者に対して行ったアンケート調査では、46%の企業が中国からの川上製品が必要であると答え、中国への依存性は化学工業、電子設備分野で顕著に現れており、そのうちドイツの化学工業分野の27%の重要原材料が中国から輸入されており、電子設備分野も21.4%を占めている。さらに、ドイツは電動モーターを生産するための原材料の65%を中国から輸入しており、風力タービンや電気自動車の製造に不可欠なジスプロシウム、ネオジム、プラセオジムなどのレアアースは100%を中国から輸入する必要がある。中国は太陽光発電パネル分野で原材料・技術ともに圧倒的優位を占めており、欧州全体の自社生産能力は5〜6%にすぎない。

現在、こうした状況はドイツ社会で懸念や警告を募らせている。ドイツのメルカトル中国研究所(MERICS)のある上級研究員の話によると、「ドイツ経済の中国への依存度の高さに対するドイツ政界の長期的な黙認姿勢には、最近すでに顕著な変化が現れている」という。一部政治家は「中国の人権状況」を懸念し、一部エコノミストはドイツが今後、「主に価値観の近い国と貿易を行うべきだ」と主張している。

ドイツ企業についていうと、その多くが矛盾した心理状態にある。一方では、自社のサプライチェーンが中国に過度に依存しないようにしたいと願っており、他方では、中国のサプライチェーンの強みや魅力を認めざるを得ず、それが中国を「捨てがたい」と思う要因となっている。前出のIFO経済研究所報告書の執筆者の1人は、ドイツは中国との経済的往来を「突然」断ち切ることはできないと述べる。ドイツが突然中国経済から「デカップリング」すれば、サプライチェーンは寸断されるだろう。さらに、中国との経済関係を政治的に「デカップリング」することは、中国の大市場から離れることも意味し、多くの企業はこうした損失に直面したくないと思っている。

中国との経済往来を断ち切ったり弱めたりするのは、「いきなり」はできないが、「ゆっくり」ならばできるのか。残念ながら、このような傾向は実はこれまで見られていない。2016年、中国はドイツの最大の貿易相手国となり、その後、二国間の貿易額はますます拡大している。昨年1年だけで、両国間の商品貿易額は2454億ユーロに達した。ドイツ連邦統計庁が今年5月4日に発表した報告書によると、2021年、中国大陸はすでにドイツの海港コンテナ輸送の最大の協力パートナーとなっており、同年のドイツのコンテナ取扱量の5分の1を占めている。ドイツのコンテナ輸送で最も重要な提携先10港のうち4港が上海港、寧波港、深セン港、青島港といった中国の港だ。

現在、米国、欧州、日本において、中国との「デカップリング」、中国への依存度の低下、「サプライチェーンの安全性」などを求める考え方は、確かに世論にかなり支持されていることは認めるべきであり、これが確かに中国に対する圧力となっていることも認めなければならない。『必読』編集部が見るところ、このことで多くの多国籍企業が生産ラインを中国から撤退すると考えるに至るのは、それは大きな間違いで、経済学の論理から見ても国際経済史から見ても、国際サプライチェーンをどのように形作るかは、結局は政治家ではなく市場の力によって決まるからだ。ここでの話から、フォルクスワーゲンや多くのドイツ企業の中国に対する姿勢の一端を窺い知ることができる。

(『日系企業リーダー必読』2022年6月5日記事からダイジェスト)

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