『必読』ダイジェスト 中国欧州連合商工会議所(EUCCC)とドイツ・ベルリンのメルカトル中国研究センターが共同で作成し、6月8日に発表されたレポートによると、大多数の在中国欧州企業は、中国現地のイノベーション研究開発により利益を受け、かつこの戦略を続けていくとのことである。アンケート回答企業のうち75%が「中国における研究開発投資を増やす」、18%が「現在の水準を保つ」と回答している。
EUCCCのヨルグ・ウトテ会長は、レポート発表会において、中国とのデカップリングは選択肢にはなく、「中国市場からの撤退は、企業の利益を損なう」と語っている。ウクライナ戦争が勃発して以来、欧州の世論では、ドイツ経済のロシア・中国両国への依存性に関する議論が盛り上がっている。こうした背景のもとで、ウトケ会長は、「われわれはロシアとの間にはエネルギーのパイプラインがあり、われわれと中国との間には、知識と資本が流れるパイプラインがある」と指摘し、「中国においてイノベーション研究開発に投資することは、中国を利するだけでなく、欧州企業の本土における発展にも利益がある」としている。
この『中国のイノベーション生態』と題したレポートは、2021年9月~2022年4月までの在中国EU企業に対するアンケート調査に基づくもので、この結果によると、中国でイノベーション研究開発を行うことは、多くの欧州資本の企業にとって極めて正しい戦略的選択であるが、当然すべての企業にとってそうであるわけではない。
調査結果によると、自動車・化学工業などの業界の欧州企業は、中国の巨大な市場とプッシュ型産業政策を前にして、研究開発分野でより能動的・積極的に投資を行っている。それに対して、ITや電信などの業界では、「市場チャンスの先行きがあまり理想的でない」「政府の管理圧力」などの理由により、相対的に消極的である。
中国の研究開発はますます活発に
「中国の研究開発はますます活発化し、世界のその他の場所に比べても多くの強みをもつ」と大部分の欧州企業が考えていることが、このレポートで指摘されている。その強みとは、「多くの協力パートナーがいる(50%の企業が同意)」、「イノベーション力に富む科学研究者がいる(67%の企業が同意)」、「巨大な市場(68%の企業が同意)、新技術の商業への応用が速い(68%の企業が同意)」というものだ。
また、不利な条件として、「知的財産権の保護が充分でない」、「競争の不公平」、「中国の外資系企業に対する補助や障壁が不透明である」などが挙げられる。そのほか一部の企業は、中国にも「ローカルの専門人材不足の問題」があることを上げているが、例えばそれは「ふさわしいハードウェアエンジニアを探すことが一種の課題となっている」などだ。
中国の「研究開発システム」に参加することは、55%の企業にとって、「世界イノベーション戦略の重要な一部」であり、その他45%の企業にとっては、「世界戦略の一部」でもある。
業界ごとの違い
しかし、欧州企業の中国におけるイノベーション研究開発への投入レベルは、業界によって異なる。化学工業、自動車、機械製造業などの業界の企業は、中国における「現地化」生産が中国の公的な奨励を受けている。こうした業界の大多数の欧州企業の中国における戦略は「全力投入」――全面的に中国における研究開発投資を拡大し、中国と世界市場における価値と増益の最大化を実現するというものだ。
一方で、開放された市場に依存する、あるいは国際メディアの注目度が比較的高い一部の業界では、欧州企業は中国で研究開発の範囲は拡大するものの、コア技術や研究イノベーションについては自国市場に残しておき、基幹技術の中国への移転は減らすという比較的慎重な政策を選択している。
ドイツ最大の経済新聞である『フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング』紙はこのレポートに対し、「言い換えれば、中国の研究開発環境はその市場全体の一つの縮図である。これがあらゆる外国企業にふさわしいとはいえないが、大多数の企業に利益を得させるに足るものだということは認識しておかねばならない」とコメントしている。
(『日系企業リーダー必読』2022年6月20日記事からダイジェスト)