陳言/文 豊台区にある団地にまるまる2年住んでいるが、不動産管理会社とやりとりした以外、近所の人との付き合いはまったくない。
以前住んでいた企業の宿舎では、隣人たちはみな同僚で、互いのことをよく知っていた。中国に戻ってからの20年近く、われわれ夫婦は、隣人たちが口喧嘩と勘違いして仲介に入ろうとするのでないかと恐れ、家で大声を出すのをはばかっていたほどだ。今の団地ではまったく様相が異なり、みんなお互いをよく知らず、それぞれ自由に暮らしていた。
今回、コロナで団地内に閉じ込められ、管理会社は団地住民をすべてSNSの友達グループに登録しようとし、巨大なグループができあがった。疑問や支障があれば、ここで発言すれば、必ず誰かが良いアイデアを出してくれる。
封鎖にあった時も突然だったが、いつ封鎖が解かれるかについても、管理会社、町内会、区役所はひた隠しに隠し、決して情報をもらすことはなく、通勤が必要な人は特に、どんなに多くの人が問い合わせても、区役所が文字による回答を行うことは決してなかった。コロナ自体が絶えず変化しており、区役所には政策を読み解く権力はなく、すべて上からの指示で動くものであり、上層部も団地レベルまで管理することはできなかった。
どこから聞いてきたのか、封鎖が解かれる日の情報を、こっそりSNSグループに流してくれる強者がいた。管理会社も区役所の人間も、当然こうした発言を見ていただろうが、「デマ」を打ち消しもしなかったので、みなこれは正確な情報だと思うようになり、待ちこがれる目標とするようになった。
われわれのグループは、この団地のどの棟のどの階のだれそれさんがコロナ陽性で、濃厚接触者がいったい何人いるのか、最後まで役所から情報を得ることはできなかった。個人のプライバシーにも関係するし、毎日顔をつきあわせているので、彼らも発表するのに差し障りがあったのだろう。区役所はPCR検査の2時間前にSNSで通知を出すだけで、その後またサイレントモードに入ってしまった。
SNSのグループが出来ても、同じ棟に住む人たちは相変わらず互いを知らなかったが、かなり距離が近くなった気がした。管理サービスに対する不満、区が出す情報があまりに少なく、遅すぎるという批判など、もともとバラバラだった団地住民たちに、共通の利益を守るための情報チャネルが多少なりともできたのだ。
2022年、中国の代表的なSNSである微信(ウィーチャット)のユーザーは12億6000万人に達し、ユーザーはみな数個から数十個のグループに参加しており、誰もが情報の発信者・伝達者である。微信の中にある「行程カード」は外出する際には必携の通行証となり、微信をますます普及させ、情報伝達もまた個人の特徴をより帯びるようになった。無数のグループへと伝達されることで、情報を拡散させ、このような情報伝播が今後社会の各方面へと拡大し、コロナは間違いなくこうした特徴を強化したのである。
(中国日本商会HP 2022年6月23日より)