研究院オリジナル  日本企業の世界におけるプレゼンスはなぜ低下しているのか。これが再び中国メディアの報道や人々の討論のトピックとなっていて、今回の答えは、日本企業が「アニマル・スピリット」を失っているからというものだ。

まず、権威をもつ財新網が、スイスで開かれたダボス会議における「日本企業はアニマル・スピリットを失っている」というサントリーホールディングスの新浪剛史社長の発言を報道した。90年代に日本のバブル経済がはじけた後、日本企業は雇用関係を守ろうとする傾向へと変化し、特にコスト削減により正社員を守ろうとしたが、給与を引き上げようとしなかったため、最終的に企業は活力を失ったと彼は考えている。

新浪社長は、「日本企業の管理職は本当の意味での多様性に欠く」と指摘している。彼からみると、理事会メンバーを新しくするメカニズムが必要であり、「多様性は女性などの性別を指すだけでなく、異なる文化的バックグラウンドをもつ従業員を受け容れられることを指す」

「特に大企業では、理事会の中心メンバーは大学を卒業して以来、ずっと同じ会社で長いこと仕事をしてきた人材で、多くの事を変えることができず、次世代はその前の世代よりも『さらに小さく』なる。彼らが自分の前任者に逆らうことは難しく、その結果として、理事会はお友達クラブになってしまった」と彼は語る。

財新網のこの報道は5月26日にサイトのトップページの目立つ位置に置かれた。

新浪社長は日本の人材流動性が足りないというところに着眼しているが、「アニマル・スピリット」という言葉が指すのは、投資の積極性のことだ。「アニマル・スピリット」とは、大経済学者であるジョン・メイナード・ケインズの有名な概念で、ケインズ理論の基本的な出発点は、投資行為は理性により選択・説明することはできないというものだ。なぜなら経済見通しは根本的に捉え難く、そのために投資は「アニマル・スピリット」による衝動、すなわち自然の本能によって突き動かされる必要があると彼は言う。

この意味で、6月上旬にネットで広く転送されたセルフメディアの文章「バランスシートが奮闘をやめたとき――日本の失われた20年が中国に与えるヒント」(以下「ヒント」と略)が全面的な答えを与えてくれる。

この文章は日本の著名な経済学者であるリチャード・クー(辜朝明)の理論の観点を全面的に紹介したものだ。どうして日本が「失われた20年」に陥ったのか、クーはその原因を「バランスシートの衰退」にあるとしていて、それは、日本のバブル崩壊が資産価格の急激な減少を招き、多くの企業や家庭が「技術的破産」に陥る、すなわち日本企業がバブルのピーク時にレバレッジをかけて購入した高価な資産を、下落した価格でバランスシートを計算し直すと、多くの企業が実際には債務が資産を上回っていたことを指す。

「日本人がどんな措置をとったかというと、黙々とお金を稼ぎ、債務を返済したのだ。日本企業のバランスシートは悪化したが、製品の競争力はまだあり、利潤を生みだすだけのキャシューフローはあったが、こうした利潤は生産拡大に使われることなく、債務返済にあてられた。こうしたことが続けば、経済が縮小しないはずがない」と「ヒント」には記されている。

「さらにいえば、日本企業と個人の目標には根本的な変化が生まれていた。もはや利潤の最大化は求めず、負債の最小化を求めるというものだ。どれだけ通貨刺激策に力を入れようとも、企業には根本的にもはや生産拡大のニーズはなく、融資への意欲はひどく不足している。これは日本政府がどのような通貨政策を出そうともまったく効果がないことを説明している」

「1988年には、2.5%の低金利が直接資産のバブル化を生んだが、1993年になると、同じく2.5%の金利でも、何ら刺激作用ももたらすことはなく、その後ゼロ金利にまで下がっても、企業は無関心で、死んでもお金を借りようとはしなかった。90年代を通して、日本企業の毎年の純負債返済量はずっと数十兆円規模を維持していた」

「これは80年代のムードとはまったく異なるものだ。ほんの数年前まで、日本人は世界中を買いまくる勢いで、ロンドンやニューヨークなどのブランド店は日本の金持ちでいっぱいで、普通のサラリーマン家庭でも30年ローンでロンドンやニューヨークにも匹敵するような値段のマンションや一戸建てを買っていた。国全体が大病を患った後、あらゆる人の先行き予測が変化した。

あらゆる人の先行き予測が変化したのは、実際には「アニマル・スピリット」が失われたからで、これにより日本はまた、世界的な科学技術革命の波に乗り損うこととなる。その典型的な例が、日本本土のインターネット起業や融資がずっと盛り上がらなかったことである。1990年代、米国のICTへの投資がGDPに占める割合は日本の4倍であり、日本は米国より低いだけでなく、英国・ドイツ・イタリアよりも低く、G7諸国の中で最下位に位置する。

日本がインターネットに乗り損ねた原因は実はとてもシンプルで、創業する人が多くなく、投資するお金はさらに少なかったためだと「ヒント」には記されている。

「最後に、日本社会は『バランスシートの衰退』が広く蔓延する場所となり、企業から家庭へ、家庭から個人へと蔓延していった。企業はレポートで衰退を体現したが、若者は住宅ローン、婚姻、出生率、起業への情熱――彼らの唯一の資産といえるもの――を用いて『バランスシートの衰退』に応えた。

「クーの研究から分かるのは、一つの経済体の拡大意欲と向上の意志は、水でいっぱいのビンに喩えることができ、最初は満タン状態であるが、揺さぶられるたびに水が多くこぼれ、激しい揺れによって水は全くなくなってしまうということだ。ビンの中の水を大切に思うあまり、揺らす回数を減らし、それが成長を保つ希望となる」と、「ヒント」は結論付けている。この話の中には中国の現状に対し、暗示するものも多い。

この文がテンセント上に転載されたとき、ページの下方のコメント欄に第三位に書き込んだ読者は、まず上述の文を引用し、さらに「これに零細小企業の私は深い感銘を受けた。私は今2%の金利で貸してくれる銀行があるが、私はそれでも借りたいと思わない。それは利息を恐れるのではなく、何ら良い投資チャネルがなく元手をすることを恐れているからだ」とコメントしている。

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