研究院オリジナル 近ごろ、日系コンビニ大手のセブンイレブン中国が突然トップを入れ替え、内田慎治氏は同社の代表取締役を退き、後任には元同社CFO、取締役の厳茜氏が選ばれた。

今回の突発的な人事異動の理由をセブンイレブン側は明らかにしていない。多くの海外企業は、自社がある程度まで発展した後に、中国エリアの上層部を現地化しているが、今回のセブンイレブンにおける配置転換は状況が異なるようだ。業界関係者の推測によると2つの理由が考えられるという。一つは同社が過去のある時期からずっと財務状況に一定の問題を抱えているため、今回の人事異動で主席財務官を後任に選んだというものであり、もう一つは、同社がこれまでずっと堅持してきた経営発展モデルを転換し始めた可能性があるということだ。現在行われている分析の多くが後者に傾いている。

内田氏がセブンイレブン中国で指揮をとっていた期間中、常に力を入れていたのは「中国モデル」の構築だったが、同社の「中国モデル」とは店舗の一日の売上を伸ばすことに注力して、店舗ごとに黒字を実現することだ。そのロジックは、加盟店が黒字を実現さえすれば、本部の黒字も可能になるというものだ。

内田氏によると、店舗の一日の売上が高いことは、消費者から支持が得られていることを表わしており、一日の売上の高さに重きを置いて店舗を拡大すれば、より長い発展につながり、店舗の高い一日の売上が確保される。このロジックこそ、「日本のコンビニの総数がすでに5万店を超えており、誰もがセブンイレブンの発展が頭打ちになっていると思っていた時でも、同社がこれまでと変わることなく発展を続けられた要因」だという。

それゆえ、1992年に中国大陸に進出してから、セブンイレブンは常に店舗数ではなく、各店舗の一日当たりの平均売上をいつも重視しているため、開店の速度は常に遅く、2017年になってセブンイレブン(中国)はようやくエリア内におけるフランチャイズ加盟の門戸を開いたが、これはセブンイレブン日本本社のやり方と異なる。

内田氏の経営理念は量ではなく質で勝負を制するというものだが、明らかに、内田氏による「中国モデル」は実質的に日本企業の伝統的な理念を揺るぎないものにしている。

店舗の一日の売上を向上させるために、セブンイレブンは多くの努力を払っている。例えば、全てのセブンイレブンが自社開発のブランド商品を有し、自社で生産メーカーを選び、消費市場に対してニーズの分析を行い、オーダーメードとも言える商品の生産を発注している。

これにより、セブンイレブンは(中国)で最も質の高いコンビニという立場を占めることができ、中国の消費者からも好評を得ている。セブンイレブンが新しい都市に出店する度に、同社一号店の初日の売上額が大抵、世界のコンビニにおける一店舗の最高日商記録を更新している。例えば、2020年末に中国・煙台の一号店の売上は75万元以上を記録し、中国では6回目となる世界のチェーン店全体における新記録の更新となった。

しかし、このモデルは問題も招いている。品質を管理して黒字を実現するため、セブンイレブンは加盟パートナーの選択を非常に厳しくしており、同社のパートナー対象企業は金鷹、友阿、三全など現地の食品企業やビジネスおよび貿易界の大手企業だ。また自社の各店舗の場所選びも極めて慎重だ。店舗数拡大の制限がもたらした弊害とは、同社はデリカが商品全体の50%以上を占めるコンビニだが、チェーン店の運営がまだ1年以内という前記段階では、高額のデリカが赤字を計上し、それに前記の大きな資金注入や長い収益サイクルなどの圧力が加わると、一定規模のチェーン店舗数がない場合、加盟パートナーのキャッシュフローは非常に切迫する。この他に、店舗ごとの黒字を実現することができても、セブンイレブンの厳しい立地条件は、一定規模の店舗数によって収益増加がもたらされる可能性がほとんどないことを意味している。

それゆえ、北京や天津エリアにおけるセブンイレブン店舗の一日平均売上額は中国国内企業のコンビニの一日平均売上水準の3倍前後だが、これら2つのエリアでは黒字化まで7年もかかっており、また成都の盛隆街や福興街などにあった既存店は閉店に追いやられている。

近年、一、二級都市では家賃と人件費が高騰しており、セブンイレブンにおける店舗の売上増加の余地が少なくなってきており、同社のモデルが直面する圧力も増大し続けている。

特筆に値するのは、中国の小売業におけるビジネスモデルに新たな変化が生じており、アクセス数がビジネスの発展を駆動する新たな力となっている。その典型的な例がオンライン上のアクセス数に依存しているEコマースプラットフォームがこの10年間で凄まじい成長を遂げていることだ。同様に、オフラインのアクセス数、つまり来店者数もコンビニの発展を駆動する重要な要素となっており、店舗数の多少がどれだけの集客力を有しているかを示す。

中国国内企業のコンビニは速やかにこの変化のトレンドを把握している。密度の高い出店を念頭においてエリアの狙いを定め、エリア内に一定規模の店舗数を展開し、同時に、Eコマースを組み合わせて、オン・オフラインの融合を図ることによって、さらなる来店者数を獲得し、ブランドと規模による効果を形成すると共にコストを削減している。中国国内のコンビニの多くはB2Bモデルも兼ね合わせて、商品の流通からも利益を上げている。CCFAデータによると、2018年に中国のコンビニ業界では、全体の70%がオンライン注文業務を展開し、60%が商品の宅配サービスを行っており、また70%以上がオンラインアクティビティによってアクセスの流入を促進している。

中国国内のコンビニの新たなやり方と凄まじい勢いによる拡大は、従来型の日系コンビニにとって日に日に厳しさを増す試練となっている。『2021年中国のコンビニランキングTOP 100』では、1位から4位までを中国国内ブランドが占め、日系のローソン、ファミリーマート、セブンイレブンはそれぞれ5位から7位だった。

現状として、運営および品質管理の面で、中国国内企業のコンビニとセブンイレブンなど日系のコンビニとを比べると、その差は小さいとはまだまだ言えないが、中国国内企業のコンビニの拡大はきわめて強い影響力があり、例えば店舗数が2万7000店以上のコンビニチェーン「美宜佳」は、毎年新たに2000から3000店ほどの出店速度で拡大しているが、中国で30年間発展し続けてきたセブンイレブンは現在でも総店舗数が2400店にも満たない。

中国国内企業のコンビニは店舗数の拡大だけでなく、品質向上の面でも追い上げてきている。例えば中国の無人スマートコンビニチェーン「便利蜂」は毎週、各店舗で売上が少なかった商品の20%を入れ替えており、市場における同社のアジリティは、セブンイレブンを大きく引き離している。

セブンイレブンと同じく日系コンビニのローソンはすでに狙いを定めた転換を図っている。2017年、同社の中国国内店舗数は1000店未満だったが、2020年末には3000店を突破した。ローソンの中国エリア総裁を務める三宅示修氏は、2025年までに中国国内の店舗数を1万店に増やしたいという考えを示した。

初めて中国に参入し、中国で30年間にわたって営業し続けてきた日系の老舗コンビニとして、セブンイレブンは今、変化の時を迎えている。

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