陳言/文  ソニーは5月10日に2021会計年度(2021年4月1日-2022年3月31日)の財務報告を公表した。2021会計年度の総売上高は9兆9215億円で、1000億ドル近かった。営業利益は1兆2023億円で、前年比25.9%増であり、過去最高を記録した。営業利益から見ると、ソニーは日本の製造業界においてトヨタ(営業利益2兆9956億円)に次いで2番目に最も稼いだ企業だ。

しかし、企業の従業員規模から見ると、トヨタグループ(本社+世界のホールディングカンパニー)の総従業員数は36万6283人で、本社の従業員数は7万1373人だ。これに対して、ソニーグループ(本社+世界のホールディングカンパニー)の総従業員数は11万4400人(2019年)で、本社の従業員数はわずか8500人だ。ソニーの従業員数はトヨタよりもずっと少ないが、営業利益はトヨタの約半分に達しており、この観点から見れば、ソニーの収益力はトヨタを大きく上回っている。

ソニーと他の日本企業を比較して、ソニーの収益力に注目してみよう。

まずソニーとトヨタを見てみよう。大まかに、これら二社の違いは何かと言えば、多角化と専門化の違いだ。トヨタの製品は基本的に自動車だが、ソニーはエンターテイメント(ゲーム機、音楽、映画)、家電、半導体、金融など多くの部門を抱えている。つまり、事業を分散させているが、業務内容が多いことによりソニーは常にどの時期にも、どれかの部門で高い収益を上げられるようにしている。例えば2021会計年度、ソニーはゲーム機のPS5が当初掲げていた販売目標を達成できなかったが、投資していた映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の全世界累計興行収入が10億ドルを突破し、2021年の世界興行収入で1位になり、音楽事業でもかなり高い収益を上げた。そして、PS5の売れ行きが振るわなかったが、ゲーム自体の人気は健在であり、課金制のオンラインゲームのユーザーも少なくない。

さらにソニーと多角化路線を歩んでいる他の日本企業と比較してみよう。日本の総合電機メーカーがとっているのはいずれも多角化路線だが、その大多数は「選択と集中」の経営方式を採用している。それは、収益力が高い分野を選んで集中的に投資して、収益効果を維持し、そして収益が見込めない業務に関しては選択しない、つまり淘汰するということだ。パナソニックや東芝、日立などは長年にわたりこの路線をとってきた。

ソニーはパナソニックや東芝などとは異なり、「放任と撤退」の道を歩んできた。従来のソニー製品の多くには顕著なイノベーション性が見られた。例えば同社が率先して開発したウォークマンやCDディスクなどは、かつてソニーを最も特徴づける商品だった。ソニーの創始者である井深大氏や盛田昭夫氏は部下に自分の好きなことをさせていた。例えば、ソニーの音楽業務は今でも日本で大きな市場を占めているが、実のところソニーは初めから自社の音楽部門を持っていたわけではなく、ただ音楽が好きな職員が時間を捻出して芸能界の人々と交流し、彼らのために音楽の再生に関連する問題を解決していただけだが、その後ソニーは徐々に音楽業界に地歩を築いた。今ではインターネットを介して音楽やビデオ作品を販売しており、ソニーはこの分野で高い収益力を得ている。

長年にわたって企業に利益をもたらしていない事業については、ソニーも撤退を断行している。元々、ソニーは液晶テレビや電池、ノートパソコンなどの方面でかなり多くの技術を蓄積しているが、製品が長期にわたって企業に十分な収益をもたらさない場合、ソニーは少しの迷いもなく関連部門を切り離している。つまり、ソニーは決断すべき時にはさっさと決定を行って、速やかに損失を食い止めており、この方面でのパフォーマンスにおいても他の「総合電機メーカー」より優れている。

2000年以降、日本企業の全体的なイノベーション力は下降し、新製品の数やイテレーションの速度なども程度に差はあれ後退しており、人々の目を奪うような商品が少なくなったが、この記事の筆者である私の意見として、その大きな原因の一つは、研究開発における企業の「放任」が少なくなったことにある。研究開発に対して常に求められているのは、決められた時間内に成果を出すことだ。ちょっと遅延したらプロジェクト自体が頓挫することもあるが、このような事態は研究開発の積極性を挫く。

当然、一つの会計年度における収益だけで経営モデルの優劣を十分に証明することはできない。しかし、私自身の感覚として、ソニーはかつての全盛期の頃ほどではないにしても、依然として「放任と撤退」の経営モデルをある程度保持しており、この点で確かにソニーは他の日本の総合電機メーカーよりも優れているだけでなく、これこそ同社が収益を上げている深い要因だ。

作者は日本企業(中国)研究院執行院長

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