陳言/文 5月7日早朝、財新網は『在上海日本企業が再びアピール 依然困難が伴う操業と生産の再開』と題する報道を行い、在上海日本企業の操業と生産の再開に関する状況を示した上海日本商工クラブによる2回目のアンケートの結果を詳しく紹介した。同結果によると、ロックダウン期間中、80%の企業が操業と生産を停止し、約30%の企業が日本の工場か、又は第三国の工場で代替生産を行ったという。同報道は上海日本商工クラブの垣内隆理事長が上海市商務委員会の顧軍主任に送った郵便物の内容の一部を引用し、また匿名の日本企業数社が物流、事務、生産および職員の生活などにおいて直面している困難に関する陳述を引用している。同報道によると、「一連の不都合な事態が在上海日本企業に実質的な影響を及ぼしており、一部の日本企業には失注や注文の他社への流出が生じる可能性がある」という。同報道は全文で1600字余りだった。

上海日本商工クラブによる今回のアンケート結果について報じた中国メディアは財新網だけだった。同メディアは中国の各界で権力を有する高学歴、高収入の層に大きな影響力を及ぼしているが、読者のコメントに対しては非常に厳しく、サイト上に表示される読者からのコメント数は非常に限定されている。5月8日午後の時点で、財新網による同報道のページには21件の読者からのコメントが表示されていた。サンプルが非常に少ないとはいえ(財新網にしては決して少ないわけではない)、その中から中国世論の注目点をうかがい知ることができる。

読者からのコメントはいずれも、他の読者からの「賛成(親指を上に立てたアイコン)」又は「反対(親指を下に立てたアイコン)」の評価が得られる。興味深いことに、「反対」が最も多かったのは「日本」に関連する以下の2つのコメントだった。

1つは、「私が思うに、これは日本の首相が日常的に悶着を起こすことも関係している」だが、このコメントに対して「反対」が176件、「賛成」が3件つけられた。このことは、財新網の大多数の読者が、このように何でもかんでも中日両国の政治関係にこじつけようとするやり方に反感を抱いていることを示している。

もう1つは、「米国企業はいち早く生産を再開させた。日本企業は反省すべきだ」というコメントであり、「反対」が114件、「賛成」が12件だった。このコメントは意味が漠然としているが、日本企業が操業再開に向けて米国企業ほどの努力をしていないことを批判しているようだ。しかし、操業再開は明らかに企業の努力だけで何とかなるものではない。また、このコメントは米国企業(特にテスラ)には中国政府から特別な配慮が払われている一方で、日本企業はそのような優遇を受けていないゆえに、日本企業は自分自身の不出来な点を反省するべきだと暗に皮肉っているのかもしれないが、どんな意味であったとしても、財新網の大多数の読者にとって、日本企業(中国の政府部門ではない)に対して「反省」を要求するのは無分別であり、訳の分からない観点だと受け取られている。

コメント数から見ると、中国からの注文や海外企業の流出を危惧する意見が占める割合が非常に高く、合わせて5件で、全体の約4分の1を占める。

例えば、「封鎖の不確実性は、サプライチェーンの大規模な外部流出を招く」というコメントは、「賛成」を70件も獲得した。「いち早く操業と生産を再開して、注文の外部流出を防ぐべきだ」には、「賛成」が40件もつけられた。

「封鎖により外資企業が直面している困難を見て、人々はその行く末を最も憂慮している」というコメントには63件の「賛成」が寄せられた。いわゆる「行く末」が指しているのは、同報道の最後から2段落目の内容のことだろう。この段落は「一連の不都合な事態が在上海日本企業に実質的な影響を及ぼしており、一部の日本企業には失注や注文の他社への流出が生じる可能性がある」ことを指摘しており、さらに日本企業二社の責任者の見解を引用してその危険性について立証している。

「さあ行こうぜ、古い言い方をすれば、歴史的な使命はすでに達成されている」というコメントには皮肉が込められており、中国政府から見て、外資企業が中国において果たす役割はかつてほど大きくないという意味だ。ある流行歌の歌詞に「さあ行こうぜ、人生に苦痛や葛藤は付き物だ」というフレーズがあるが、そのフレーズをもじって外資企業が中国を撤退する可能性を冗談にしているのだ。

ビジネス環境に対する批判が最も多く、6件だった。

例えば、「商取引で最も重要なのは信用だが、信頼の回復は程遠い」というコメントは87件の「賛成」を得た。「外資企業誘致と外資導入にはもううんざり!」は、地方政府が外資企業を誘致する際に語る耳触りの良い言葉が全て反故にされていることを批判している。「梨のつぶてで何の音沙汰もない」は、政府の呼びかけに企業が全く反応せず、無関心なことを嘆いている。他の3件は外資企業だけにではなく民間企業にも注目するべきだと訴えている。

中国経済と国民生活を不安視しているコメントは2件だった。

「5.5%をどうやって達成するのか見てみよう」。「5.5%」は中国政府が定めた2022年のGDP成長目標だ。このコメントは実に風刺的で、「人の不幸は蜜の味」の意味合いが込められており、100件の「賛成」を獲得した。もう1つの「今は国民生活により関心を払うべきだ」には、34件の「賛成」が付けられた。

中国のメディア環境を批判したコメントが2件あった。

1つは、「今や正直なのは日本人だけだ。本当だ」。もう1つは、「中国メディアでこのニュースを報道したのは財新だけだ。まず財新の勇気に『いいね』をつけたい。そして、このようなメディア環境には恐ろしくて身の毛がよだつ」。

また、中国の政治体制を批判するコメントも2件寄せられた。

1つは、「都市において、指導者らは今、国民生活と自身の昇進又は降格の問題に同時に直面しているが、彼らにとってどちらが重要か?つまるところ、様々な政策が様々な社会の状況をもたらすが、これは根本的な問題だ」というものだ。このコメントの意味は、地方政府の役人の昇進又は降格が、上級政府による彼らへの評価に左右され、新型コロナウイルスを予防抑制するために中央が定めた封鎖措置を首尾よく実行できるか否かがその評価に最も影響を及ぼすため、地方政府の役人は国民生活にどれほどの大きな打撃が及ぼうが、構うことなく封鎖に力を入れるしかない。

それゆえ、もう1つのコメントは内容が非常に含蓄に富んでいながらも、その結論では「操業と生産の再開は全く現在の最優先事項とされていない……」と率直に言い放っている。

作者は日本企業(中国)研究院執行院長

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